乗りたいのに、まだ乗ったことのないローカル線がある。天竜浜名湖鉄道もそのひとつだったが、今秋、出張の帰りに寄り道した。かつての国鉄二俣線。海沿いの東海道線が艦砲射撃で不通に陥る事態に備えた戦時バイパス線であった。
新所原駅から東海道線と分かれ、浜名湖北岸を迂回して掛川で再び東海道線に戻ってくる。JRで行けば1時間足らずのところ、途中36駅に止まりながら2時間以上かけてたどり着く。全線を乗り通すのが楽しいというのはもはや浮世離れに等しい。
沿線は懐かしい里山風景。ミカン山や茶畑、湖面も望める。1両のワンマンカーだが、昼間の乗客は少ない。5つめの駅の奥浜名湖でおばさんの4人連れが降り、とうとう1人かと首を伸ばしてみたら、ボックス席にもう1人いたのでホッとした。
斜面にできたフルーツパークという小さな駅があって、今度は4人連れのおばあさんが乗ってきた。同じようなリュック、似たような帽子、一様に曲がった腰。ロングシートに仲良く並んで話が尽きない。4姉妹だろうと想像した。
木造駅舎も残る。天竜二俣で運転士が交代した。遠州森(写真)からは高校生の下校の一団。床に座り込む者もいて車内の雰囲気は一変した。掛川に着いてたまらず4姉妹に尋ねた。「そっくりだって」と彼女らはくすくす笑った。違ったのである。(F)