「赤門」の名で親しまれている東福寺の真ん前に2013年6月にオープン。店内にはパンも並ぶが、ミシンが置かれ、オリジナルの洋服も売っている。二つの業態が一つの空間で共存しているのだ。
実はこのお店、赤門町で生まれ育った都筑眞知子さんと、東小学校コミュニティセンターでパソコン講師をしていた藤森美能(みよし)さんが出会って生まれた。藤森さんは、本業はグラフィックデザイナーだが、その傍ら若い頃からずっと好きだったお菓子やパン作りの腕を生かせないかと、まずはネット販売でパン店を開業していた。その屋号が「アデリースタジオ」。一方都筑さんは、若い頃勤めていたアパレル系の実績を生かし、服作りをしたいと考えていた。「1人では不安ですが、2人ならなんとかなりそうと、トントン拍子で話が進んだんです。店名の『つ。』は私のこと。何だろう?って話題にしてくれそうな屋号にしようと思って」と、なかなかおちゃめな都筑さん。
駅から近いが、昭和の面影も残る静かな住宅街。カフェを併設しているので、近所の人がお茶を飲みがてら話をしにきたり、東福寺への参詣、お墓参りの人が立ち寄ったり。「それで、お供え用にお花も売っているのよ」と都筑さん。カフェでは、好みのパンでサンドイッチが作ってもらえるが、1番人気は、ピタぱんランチ(600円)だそうだ。
藤森さんのパンのキャッチコピーは、「固くて重くて旨(うま)いパン」。「発酵に2日間かけ、しっかり焼き込んでいるパンはまだ少ないですから。こういうパンが好きな人に直球で届けば遠方からでも来ていただけるかなと。それに、自家製の天然酵母の香りや風味を生かすなら粉以外入れない方がいいっていうシンプルな考え方です」と潔い藤森さん。「リンゴの皮をはじめ柑橘(かんきつ)系など、いろんな酵母で焼いていましたが、実店舗を始めたら忙しくて間に合わなくなって。今は一番クセがなくて、風味のよいブドウ酵母ですが、春は香りのいい桜で作りたい」と話す。
白パン、全粒粉50%、全粒粉100%の3種がメーン。粉と酵母の旨味が強いので、チーズやスモークハムなどとの相性が抜群だ。目が詰まっていてとにかく重く、見た目には固そうだが、スライスすれば、中身はもっちり。決して固いわけではないが、もっちもっちと、咀嚼(そしゃく)力が必要な力強い食感。噛(か)むほどに味がじわじわ染み出す。子どもは、こんなパンでしっかり顎を鍛えてほしいと思う。
文=藤田実子(ふじた・みこ)、フードジャーナリスト
掲載=2013年11月16日、神奈川新聞
Adelie Studio+つ。(あでりーすたじお ぷらすつ)
横浜市中区赤門町1-8
電話090(2419)7939
営10:00~18:00(火曜は17時まで)/水曜休み
京浜急行線黄金町駅から徒歩6分。東福寺前。