差別発言や過激な言動で国粋主義を説く指導者が世界で台頭する中、多文化共生への道を探る草の根活動が慶応大湘南藤沢キャンパス(藤沢市遠藤)で続いている。奥田敦研究室の「アラブ人学生歓迎プログラム(ASP)」。日本とアラブの学生らが共に学び、15年目を迎えた。11日には、シリアやモロッコの学生らが日本語で研究成果を発表。「人種や民族の違いを乗り越え、人間として共に生きよう」と呼び掛けた。
「イスラムでは、人への気遣いや思いやりが大事です。シリアの街の汚さを見ると、人々がイスラムの教えを忘れてしまっていると感じます」。発表会の壇上で、シリアの大学生ハーリド・ハタビーさん(23)はマイクを握った。
テーマは「内も外もきれいに~シリアと日本の街と家~」。大学があるアレッポは空爆を受け、母国は紛争状態にあるが「アレッポは幾度となく存亡の危機にさらされてきた。その度に民衆の手で立ち直った」。日本人の学生らを前に「一人一人が心をきれいにすれば街はきれいになる。何もやらないより自分が実践し、身近なところから考えを広げたい」と語った。
2002年にスタートしたASPで引き継がれてきたのは「アッサラームアライクム(あなたがたに平安あれ)」の精神だ。イスラム教徒の日常的なあいさつだが、国家間や民族間に限った平和、平安だけでなく「誰もが排除されることなく、人間として尊重し合う」という意味が込められているという。
モロッコ人学生のハディージャ・カッファーさん(29)は「イスラム教徒やアッラー(唯一神)の教えを日本人は理解できないと思っていた。でも、それは固定観念だった。プログラムで学び合うことで、(人間として尊重し合うという)アッラーの教えを理解できた」と笑顔を浮かべた。
ASPには今年まで7カ国、70人の学生が参加。奥田教授は「それぞれの立場を超えて、人としてつながっていく。共に生きる社会をこれからも目指していきたい」と話している。