
工業分野において卓越した技能者を表彰する「現代の名工」に、県内11人を含む150人が全国から選ばれた。そのうちの一人、池田石材店(横浜市中区)の3代目、池田三起生さん(78)は繊細な手作業の石工技術を持つ。「昔の職人に比べればまだまだ」。祖父の代から石工業を営み、職人に囲まれて育った池田さんは、業界の第一人者と目されてなお、偉大な先人たちの背中を追う。
「最初は嫌々だった」。中学卒業後、祖父や父と同じ石工の道に進むことになった心境をそう振り返る。
1892年から営む同石材店。創業した祖父は「赤坂離宮迎賓館」(東京都港区)の石工を任される程の腕の持ち主で、池田さんは「そんなんじゃ跡継ぎが務まらないぞ」とよくちゃかされたと言う。プレッシャーをはねのけるため、先輩職人が現場に行っている間、必死に石を彫って技術を磨き、「いつの間に彫れるようになったんだ」と驚かれたときが一番うれしかったと振り返る。
「石は一生残る。丁寧につくりなさい」という教えを体に染み込ませ、35歳で墓石を一人で仕上げられるようになり、父の死を機に40歳で店を引き継いだ。安価な軟らかい石が流通するようになっても、「墓石には硬い石が向いてる」と妥協しなかった。納期を急ぐ顧客を大手に奪われそうになっても、「仕事の出来栄えは負けられない」と丁寧な仕上がりを貫いた。
工程の多くが機械化された今でも、質の高い仕上がりには「人の手が不可欠」と言う。寺院から依頼のあった墓石の字彫りは「一字彫るのに3、4日掛ける」と、その技を追求する。祖父ら昔の職人の逸品を「石の切り方や彫り方が全然違う」と評する池田さん。「今でも見る度に震えるよ、『ちくしょう』ってね」と笑った。