
江戸時代に梅の名所として親しまれた横浜・杉田で、戦争や宅地化などで姿を消し、幻と言われた「杉田梅」の保存に尽力する女性がいる。25年前から接ぎ木などによる再生に力を入れ、増やした木で収穫した実を果肉たっぷりの梅干しに加工。昔ながらの味は、「磯子の逸品」に選ばれた。「梅干しを通じて子どもたちにまちの歴史を学んでほしい」。思いは尽きない。
杉田の梅は約400年前、杉田村の領主・間宮信繁が「地質が悪くても育ちやすいものを」と梅の木の栽培を奨励したことが始まりとされる。3万6千本余りの梅の木が織りなす景色は「絶景」と愛され、江戸時代には浮世絵師の歌川広重が「光君名所合(ひかるきみめいしょあわせ) 杉田の梅」で描いたほどだ。

収穫した梅を塩漬けにした梅干しも保存食として大事にされてきたが、木々はまちの移り変わりとともに減少。戦争や塩害などにも見舞われ姿を消したと思われていたところ、原木が小田原市の曽我梅林で現存していることが判明した。
その原木から接ぎ木を重ね、杉田で梅の再生に取り組んでいるのは、料理研究家の市原由貴子さん(56)だ。20年ほど前、梅について学ぶ「梅塾」(横浜市磯子区)を開校し、5年前には活動拠点となる「梅の木ハウス」を塾内に開設。10本ほどに増えた木から収穫した実を利用し、食育活動にも励んでいる。

5年前には手作り梅干しの販売を始め、地産地消を推進するスーパー「スズキヤ」が取り扱った約2年前から知名度が向上。昨年9月に区民が選ぶ「磯子の逸品」に選ばれた。
品質改良されていない日本古来の杉田梅は「大粒でクエン酸が強く、梅干しや梅酒に向いている」と市原さん。「免疫力を高める効果もあると言われているので、ぜひ日々の生活に取り入れてほしい」と呼び掛けている。

市原さんが主宰する料理教室「横浜 旬(しゅん)・菜(さい)・果(か)」は今月24、25、27日、杉田梅の梅干し作りを体験できる講座を開催する。受講料は3500円(材料費含む)。問い合わせは、市原さん電話090(8052)3478。
◇
磯子区は、スイーツやラーメンなど全44品をまとめたリーフレット「磯子の逸品」を区役所や区内の地区センターなどで配布中。区の公式サイトからもダウンロードできる。6月末からは、店舗を巡るとオリジナルグッズをもらえるスタンプラリーも開催予定という。詳細は「磯子の逸品」事務局電話045(750)2331。