住民の高齢化が進む横浜市旭区の左近山団地で今月、1組のカップルが結婚式を挙げた。昨秋から同団地で暮らし始め、住民主導で進む団地のリニューアルにも携わった新婦のたっての希望で実現した。高齢化や設備の老朽化など、活力が失われつつある団地の再生に、若者が主体的に関わる大切さを発信する舞台にもなった。
今月19日、クローバーの種を詰めた風船が青空に高々と舞い上がった。「おめでとう」「お幸せに」-。祝福の輪が広がる中、ウエディングドレスに身を包んだ坂田文香さん(29)は幸せをかみしめた。隣で夫・旭さん(33)、父・哲郎さん(62)がほほ笑む。「同じ団地に暮らすこんなにも多くの人に祝ってもらえてうれしい」。文香さんのほおをうれし涙が伝った。
“式場”は昨年6月、同団地中央地区住宅管理組合が約6千万円を拠出してリニューアルした集会所前の広場「みんなのにわ」。にぎわいを少しでも取り戻すための方策として、全国でも珍しい再生策の審査会を経て、広場のリニューアルは決まった。
その景観設計を担ったのが、文香さんが勤める設計事務所だった。既存設備をなるべく生かす形でウッドデッキやステージ、遊具などを設けた。団地と周辺地域との関わりを密にしようと、地元の小学生や高齢者らが芝生を植えたり、木製ベンチを作ったりと一役買った。文香さんも設計に主体的に関わった。
思い入れと愛着が詰まった団地で、広場のリニューアル後に旭さんと生活を始めた文香さん。「今までお世話になった人はもちろん、左近山団地に関わるたくさんの人たちに参加してもらえる結婚式をしたい」と熱望。何度も関係者と打ち合わせを重ね、晴れの日を迎えた。
ウッドデッキでの披露宴では、多くの住民が足を止め、若い2人の門出を、団地の将来に重ね合わせて祝福。ウッドデッキは、文香さんたちが「子どもが安全に遊べる場」と位置付けたリニューアルの中心コンセプトとなる設備だ。左近山をはじめ、首都圏郊外の大規模団地に共通する子育て世代の転入停滞を解消する一助になれば、との思いを込めた。
分譲、賃貸合わせ計約4800戸の左近山団地は、1968年に入居が始まり、今年は半世紀の節目。一方で、高齢化率は4割を超え、手をこまねいていれば活力低下が進むばかりだ。若者の入居が不可欠と心得る同組合の村上欽也理事長(80)は「古い、狭いなどのマイナスイメージを抱かれがちな団地に、若者が興味を持って関わるきっかけになってくれれば」と期待。多くの住民らの祝福を受けるカップルに目を細めた。