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<未来を支える>保育士確保バスツアー 東北や北海道からも

話題 | 神奈川新聞 | 2018年3月30日(金) 16:09

園児らと昼食を楽しむ研修に参加した学生ら(右奥)=川崎市中原区の茶々いまい保育園
園児らと昼食を楽しむ研修に参加した学生ら(右奥)=川崎市中原区の茶々いまい保育園

 待機児童の解消に向けて保育所整備が急速に進む中、首都圏で保育士確保が大きな課題となっている。そこで各自治体が熱い視線を送っているのが、東北などの養成校で保育を学ぶ人材だ。川崎市も2年前から、地方の養成校に通う学生に保育の担い手になってもらおうと、市内保育所の体験宿泊研修ツアーを行っている。川崎の未来を支える人材確保の取り組みを取材した。

 「この景色を見てください。地方から東京に就職を希望する方が多いですが、あの多摩川の対岸が東京都です。東京駅や品川駅、羽田空港もすぐ近くです」

 7日朝、川崎駅周辺から多摩川まで見渡せる市庁舎18階の会議室。参加者30人を笑顔で迎えた市こども未来局の邊見洋之局長があいさつした。

 市内で5年間働くと返済不要となる80万円の貸付金(修学資金・就職準備金)や月額上限8万2千円の家賃補助のほか、同市が力を入れる保育士の研修制度もアピール。市内就労への期待を込め、「皆さんのいろいろな思いに応えられるのが川崎市。楽しんで良い体験をしてください」と締めた。

 2泊3日の体験宿泊研修では社会福祉法人や株式会社、園庭の有無など形態の違う5園前後を見学する。市内の魅力をPRすべく、市藤子・F・不二雄ミュージアムなども巡る。参加者の負担は、川崎駅までの行き帰りの交通費だけで、滞在中の宿泊費や食費は市が負担し、移動のバスも用意する歓待ぶりだ。

 保育士の有効求人倍率は県内では4倍近いのに対し、東北など他地域では1倍台が多い。同局の織裳浩一担当課長は「地方の大学生や短大生、専門学校生にまずは川崎の保育や街のイメージを持ってもらい、来春以降に川崎で働くことを選択肢にしてもらうことを期待している」と話す。

 参加者を募るためのダイレクトメールの送り先は東日本全域の養成校約230校に上る。昨夏には市職員が新潟、福島、岡山県の学校に足を運んだ。地道な働き掛けが奏功し、今回も宮城、福島、秋田県など東北を中心に、遠くは北海道の学生らも参加した。

 最初の見学先は、武蔵小杉駅近くの茶々いまい保育園(定員120人)。「オトナな保育園」と銘打ち、園児を対等な人格と見て接することをモットーとする園だ。平野公也園長は、のこぎりや包丁を使う遊びや異年齢での活動などを紹介し、「生きる上で必要なことを遊びながら学ばせることを大事にしている」と説明。保育の仕事の魅力や喜びにも触れた。

 参加者らは「園の見学は通常、自分で申し込むと多く回れないが、一度に紹介してくれて助かる」「いろいろ見て、どんな保育をしたいか考える機会になった」と満足そうだった。

 昨年4月に人口150万人を突破した川崎市。保育所利用申請が増え続けており、市は今後4年間で毎年2千人分の受け入れ枠拡大を計画している。地方の学生をめぐり首都圏の自治体で「争奪戦」の様相も呈すが、織裳担当課長は話す。

 「市内の保育所を整備するために毎年400~500人の保育士が必要。保育所を運営する法人も頑張っている。待遇面だけでなく研修制度も含めた環境をつくり、志ある保育士が集まるよう力を入れたい」

成長できる環境求め


 明かりがともる高層マンション群を望む武蔵小杉駅近くの中華レストラン。保育体験研修2日目の夜、参加者30人と市内で働く若手保育士らの懇親会が開かれた。さながらOB・OG訪問のような2時間だった。


川崎市内で働く先輩保育士の話に耳を傾ける参加者ら=同市中原区の中華レストラン
川崎市内で働く先輩保育士の話に耳を傾ける参加者ら=同市中原区の中華レストラン

 「物価は高いですか。生活はやっていけますか」。東北地方の保育士養成校に通う参加者が尋ねると、現役保育士の女性は保育所側が買い手市場の東北の現状を踏まえ「3年間ぐらいは非正規扱いでしょ。川崎は家賃補助もあるし、最初から正規だから」と答えた。

 保育所見学に加え、先輩たちの生の声に触れ、研修参加者らは川崎で働くイメージを膨らませたようだ。仙台こども専門学校1年の百足美咲さん(24)=仙台市=は「地方から見ると関東は全て大都会のイメージだけど、川崎にもさまざまな地域があり、各園がそれぞれの環境に合った保育を行っていることが分かった」と振り返った。

 社会人を経て保育士を目指す。上京する際に処遇面と同等に気になるのは、専門職として自分を磨ける環境かどうか。「川崎市が保育士の研修に力を入れていることがよく分かった。就職後も最新の保育を学びながら成長できる環境があるのは良い」。そんな好印象を持ったという。

 札幌市の光塩学園女子短大1年の吉本春花さん(19)=北海道苫小牧市出身=も「処遇は大切だが、保育士になるからには働きながらいろいろ学び、上を目指したい」と話していた。

 保育の量とともに質の確保は、市の保育行政の大きな柱だ。充実した研修制度はそれを支えるものだが、学生に対してもセールスポイントとなっている。

 市は公立保育園の民営化に伴い、保育士、栄養士、看護師ら10人程度を各区役所に再配置。定期的に区内の保育所を訪問し、困りごとの相談に応じる。公立も民間も分け隔てなく受け入れる研修を頻繁に開き、食物アレルギーや発達障害、小学校への入学準備、読み聞かせなどさまざまなテーマを扱う。

 将来的には88ある公立保育園を21まで絞り、近隣で働く保育士の研修拠点機能を持たせる。古い園舎を順次建て替えて専用の研修室を設ける予定だ。市こども未来局の織裳浩一担当課長は話す。

 「地方の学生を川崎に囲い込もうという気持ちはうまくいかない。働く前も後もしっかりフォローしていく姿勢が大切だと思う。養成校側に聞いても、学生が専門職として育つ環境に送り出したいと願っている。学生の高い志に応え、保育の質が高まれば、市民サービスの向上にもつながる」

 懇親会にも参加した保育士の高橋里沙さん(25)は東北福祉大学を卒業後、多摩区の認可保育園で働く。川崎で保育士をする感想をこう話した。
「地域として保育士をウエルカムの姿勢で迎えてくれている感じが良いと思っている」

 
 

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