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海の街で本を編む 小さな出版社

話題 | 神奈川新聞 | 2018年2月4日(日) 11:17

新しくオープンした蔵書室で「ぜひ多くの人に来て欲しい」と話すミネシンゴさん(右)と三根かよこさん夫婦=三浦市三崎
新しくオープンした蔵書室で「ぜひ多くの人に来て欲しい」と話すミネシンゴさん(右)と三根かよこさん夫婦=三浦市三崎

 三浦半島の南端、三浦市三崎の商店街に夫婦2人で営む市内唯一の出版社がある。社名は「アタシ社」。元美容師の夫は「髪」をテーマにした雑誌、デザイナーの妻は社会派文芸誌の編集長を務める。昨年11月に逗子から移り住み、事務所でもある築90年の元船具店に蔵書室を設け、一般向けに開放する。「誰でも自由に本を読める場所。気軽に遊びに来てほしい」-。いずれは地域の交流拠点になれば、と願っている。

 三崎港から歩いてすぐ。三崎下町商店街の真ん中にあるレトロな2階建てが“編集部”だ。かつて船具が置かれたであろう棚には今、小説やエッセー、漫画や写真集などあらゆるジャンルの約2千冊が並ぶ。通りを挟んだ目の前にあるのは市内に3軒しかない新刊の書店。「物件にも町にも一目ぼれだった」。夫のミネシンゴさん(33)と妻の三根かよこさん(31)がほほ笑む。

 シンゴさんは美容師を経て23歳で美容系の出版社に入社した。業界誌の編集者になったが、「出てくる美容師がほぼ一緒。内容も『カットがうまくなる10の法則』みたいな」。リクルート在籍中の2013年に、現在も編集長を務める美容文芸誌「髪とアタシ」を創刊。「全国には40万人以上も美容師がいて、面白い人がたくさんいる。そういう人を取り上げて、読み物として美容や髪の話をしたかった」と明かす。

 15年に同誌のデザイナーを務めるかよこさんと独立した。社名に込めたのは「一人称を大切にしたい。自分の思いややりたいことを表現したい」との願いだ。かよこさんも昨年、30代のための新しい社会文芸誌「たたみかた」を創刊。「福島特集」と題し、東日本大震災後の福島を描き続けるテレビディレクターらを取り上げた。

 「いつも一緒に企画会議をしているし、デザインや売り方を考えている」という2人は、夫婦という“最小単位”で雑誌を作るメリットを「外注になると深いコミュニケーションがとれなくなる」と語る。出版不況とも言われるが「ミリオンを狙うぞとか、広告費をかけてやるとかじゃなく、(1タイトルで)3千~1万部をちゃんと丁寧に売ることができれば、2人でやっていくなら十分な利益は出せる」。

 1階の蔵書室は「本と屯(たむろ)」と名付けた。オープンは不定期だが「10代にすごく来てほしい。中高生がここで本を読みふけって、何年後かに『あそこの本屋は良かった』って言ってくれるといいな」とシンゴさん。「ここに来てまちの未来や商売のこと、子どものことなど、『たむろ』しながら談議できる場所にもなれば」と夢は膨らむ。

 今年は、以前市内で開かれた写真展「三浦の人びと展」を一冊にまとめたいと考えている。写真家の有高唯之さんが漁師や農家など三浦で働くさまざまな人たちを切り取ったもので、2週間で約1500人が訪れた。2人は言う。「うちで出して目の前の書店で売って、みたいな。全国流通はそこまでさせずに、『三浦に本を買いに行こう』とか、そういう動線も引けたら意味があると思う」

 問い合わせはミネさん(mineshingo@atashisya.com)。

 
 

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