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「天狗せんべい」元祖の灯絶やさぬ

話題 | 神奈川新聞 | 2017年12月24日(日) 11:25

再建した店舗の前に立つ「村上商店」店主の村上茂さん
再建した店舗の前に立つ「村上商店」店主の村上茂さん

 「天狗(てんぐ)せんべい」で知られる老舗が災禍を乗り越え、2年ぶりに営業を再開した。南足柄市のせんべい店「村上商店」が火災に見舞われたのは2015年12月。91歳の店主村上茂さんは、一時よぎった店じまいの考えを振り払い、自身が生まれた年に始まった商売を守り抜こうと踏ん張ってきた。「無事にオープンしてほっとしているが、まだまだこれから」と意気軒高に言う。

 「待ってたよ」「良かったね」。そんな客のねぎらいに、村上さんの表情が自然とほころぶ。「2年間、やることが多くて本当に長かった」。今月20日、村上商店(同市大雄町)は再出発した。


製造が再開された天狗せんべい
製造が再開された天狗せんべい

 大雄山最乗寺の門前町に店を構えたのは、1926(大正15)年。最乗寺を守護しているとされる天狗が持つヤツデの扇をかたどった天狗せんべいを焼いて、もう90年にもなる。

 1日に6千枚ほどを作り、店と最乗寺近くにある売店の2カ所で売る。「かながわの名産100選」にも選ばれている銘菓を扱う店は市内に3軒あるが、その歴史は最も古い。

 そんな老舗で火の手が上がったのは、2015年12月17日午後6時ごろ。居間にあるストーブに火を付けたまま給油をしていたら、「ぼんっ」という音とともに火が上がった。トイレにいた妻を引っ張り出し、急いで外に逃げたが「あっという間に燃え広がった」と振り返る。

 木造平屋の店舗兼住宅は焼け落ち、隣の住宅や倉庫など4棟も全焼した。村上さんは右足にやけどを負い、小田原市内の病院に運ばれた。

 「申し訳なかった」。翌日から近隣に頭を下げに回り、焼け跡を見ては「どうしようか」と途方に暮れた。それでも、売店で販売を続けるため、店の片付けの傍らで天狗せんべいを作れる場所を求め、各地を訪ね歩いた。

 新潟県の菓子屋の機械を使えることになり、売店では一足早く16年2月に販売を再開した。店舗の方もことし3月に着工し、先月末に完了。店でも売店でも「元祖 村上」の文字が刻まれる商品が並んだ。

 もともとは、まんじゅうなど和菓子全般を扱っていた。村上さんの両親が天狗せんべいを考案したのは、創業間もないころ。往時は店の前に数百メートルの列ができるほどだった。

 今はそこまでの客足はない。売り上げは村上さんが店主に就いた20年ほど前と比べて半分ぐらいだ。客の舌が変わってきたとも思う。自身は数年前から腰痛に悩まされ「火災があり、店をやめようかという気持ちもあった」と明かす。

 だが、目に浮かんできたのは、店を切り盛りしている亡き父と母の姿。「続けないと祖先に申し訳ない」と再建を決めた。

 火災の直後から寄せられた「いつからまた天狗せんべいを焼くのか」「再開したら郵送してほしい」といった声にも背中を押された。常連客や近隣住民ら全国から100件以上の見舞金も届けられた。

 2年ぶりに機械を動かしたこともあり、まだ納得のいく焼き具合にならない。目指すのは「柔らかみがあり甘さが感じられる」という理想の味。小学生の頃から職人に教わり腕を磨いてきた村上さんをはじめ、職人たちは、一年で最も書き入れ時という正月に向けて調整を続ける。

 「味は少しずつ元通りになっている。売り上げを伸ばし、何とか後世まで続けていけたら」。村上さんは前を向いている。


 営業時間は午前9時~午後4時。天狗せんべいは、24枚入り(税込み650円)などで販売。問い合わせは、同店電話0465(74)0156。

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