酒蔵の入り口につるされ、新酒の完成を知らせる「酒林(さかばやし)」(杉玉)作りが松田町の老舗酒蔵「中澤酒造」で行われている。今年は作業の担い手が交代、酒造りとともに酒林作りも「継承」が進んでいる。
酒林は球体に編んだ竹籠に杉の葉を挿し込んだもので、直径60センチほど。一年中酒蔵に飾られているが、新酒ができあがると新しいものに作り替えられる。同酒造では、10代目鍵和田茂社長(61)の友人の有川格さん(72)=秦野市=が自己流で15年ほど酒林作りを担ってきた。
有川さんが体力的に限界を感じていたところ、思わぬ後継者が現れた。県森林インストラクターとして県立秦野戸川公園(秦野市)で活動し、同酒造を客として何度も訪れていた宮下啓一さん(70)=二宮町=だ。普段から杉などの樹木に親しんでいることもあり、軒先につるされた酒林作りに興味を示した宮下さんを酒造側が“スカウト”。有川さんの指導の下で挑戦することになった。
宮下さんが会長を務め、インストラクター12期生でつくる「森のなかま2012」のメンバー5人で、8日から作業を開始。一昨年に使った竹の骨組みに杉の葉を挿し込んでいく。「杉には慣れているつもりだったが、力の入れ方にもこつが必要で、奥が深い」と宮下さん。酒蔵のために立派な酒林を作りたい思いが強過ぎてか、作業の夢を見たメンバーもいるという。
現在、酒林は7割程度で、有川さんは「大分よくできている」と合格点。「あと2、3年で独り立ちできれば」という宮下さんは「自分たちも高齢だが、できるまでやって、その後は後輩のインストラクターにつなげられればいい」と次世代への継承も考えている。
鍵和田社長は「酒林も酒文化の一つ。多くの人に携わってもらいたい」と話す。酒林は22日に酒蔵に飾られ、翌23日からは令和元年の初しぼり「新酒しぼりたて」が販売される。問い合わせは、同酒造電話0465(82)0024。