富士山をはじめとする標高の高い国内100番目までの「日本百高山」の全登頂を果たした男性がいる。平塚市在住で日本体育協会の山岳上級指導員の資格を持つ田中弘士さん(79)。これまで4度挑み、悪天候などで阻まれていた蝙蝠(こうもり)岳(静岡県・2865メートル)が最後の難関だったが、この夏に成功した。大願成就に「ようやく達成できました」と白い歯をこぼした。
都内で育った少年が山登りに目覚めたのは中学1年の時。御岳山(東京都青梅市)に登り、魅力に取りつかれて、その後も山に足を向け続けてきた。
これまで大小2700以上の山を制覇。2004年には日本山岳会が指定する「日本三百名山」に、登山仲間と情報交換して独自に300の山を加えた「六百名山」を踏破した。
次なる目標は「日本の高い山」。標高が高い国内の100の山の登頂に狙いを定めた。
既に登った山もあり、残りは約50山。毎年のように未到達リストをつぶしていく中、高さでは40番目に相当する蝙蝠岳が残されていた。12年以降、台風の直撃や時間切れで断念したのが計4度。ことしも台風5号の接近で山小屋に2泊の足止めを強いられたが、8月10日に百高山の制覇を仲間たちと祝った。
「安全で楽しい登山」と「他人に迷惑をかけない」をモットーとする田中さんの自慢は、登山中に大けががないこと。無理をせず、帰りの時間も計算に入れた計画を立ててきたからこそ続けてこられたという。
冬山で下山途中にすれ違った登山者が、後に事故に遭ったという知らせを何度となく聞いてきた。「判断を誤ると帰らぬ人になることもある」と、山の怖さをひとときも忘れない。
悲願を達成したが、少しも燃え尽きていない。「高い山に登っても、帰る頃には次にどの山に登ろうか考えてしまう。仲間にも誘われるし、山が呼んでいるのかな」と豪快に笑う。毎日自宅近くの丘陵地を45分ほど歩いてトレーニングし、地元の湘南平や鷹取山には週1回程度ハイキングを兼ねて登る。
登山道に倒木があると管理者に片付けの要請をするなど、環境整備にも心を配る。「今まで登った山では蓼科山(長野県)や浅間山(群馬県、長野県)が草花が多く展望がよく、高齢者向け。そういう山をまとめてみたい」。その魅力を伝える伝道師として、今後も山に足を向けていく。