夏休みの自由研究で、江ノ島電鉄(藤沢市)と台湾南部の高雄市を走る「高雄メトロ」の観光連携協定を、実際に体験した小学生がいる。身近な電車が国や地域という大きなもの同士をつないでいる-。その実感が、一番の発見だ。
湘南白百合学園小学校(藤沢市)の5年生、東静佳さん(10)。江ノ電と高雄メトロの交流を駅のポスターで知り、「本当か、試してみたくなった」と自由研究のテーマに選んだ。
まず、母親を通じて江ノ電に連絡、観光企画部の岡林渉さんに連携協定の経緯や実情を聴いた。一日乗車券を購入、台湾人がよく訪れるという鎌倉高校前駅や鎌倉駅の様子も自分の目で確かめた。
夏休み中の8月、両親と妹の4人で高雄を訪問。岡林さんの紹介で、高雄メトロの担当者である黄浚欽さんにインタビューできた。一日乗車券と沿線パスポートを引き換え、家族で高雄観光を楽しんだ。
メトロに乗ってみて、日本との違いに驚いた。「飲食禁止」のルールが守られ、車内はとてもきれいだった。お年寄りや妊婦だけでなく、誰にでも席を譲る優しさがあった。店舗やホテルでは、日本語であいさつしてくれる従業員がたくさんいた。現地の優しさに触れ、「藤沢に戻ったら外国人観光客に声を掛けたい」と自然と思えた。
毎日の登下校で線路沿いを歩き、外出でもよく利用する身近な江ノ電。その交流をたどることで、高雄と交流できた。
「いつも使っている電車が、国と国(地域)を結ぶことができる」。そんな思いを帰国後に新聞にまとめ、日本民営鉄道協会主催のコンクールに応募。タイトルの「みらい新聞」には、「未来には電車を通じて国と国がもっとつながっているように」との願いを込めた。
東さんは「新聞に書ききれなかったこともたくさん教えてもらった。機会があったらみんなに伝えたい」と話している。
連携2年目、取り組みが受賞
江ノ島電鉄と高雄メトロの観光連携協定は2年目に入った。鉄道同士の交流にとどまらない観光施策は、本年度の「ジャパン・ツーリズム・アワード」ビジネス部門で部門賞を獲得した。
昨年6月に締結された協定に基づく取り組みの中心は、「沿線パスポート」の相互配布事業だ。一方の使用済み一日乗車券を相手方の駅に持参すると、沿線の店舗や施設で割り引きなどのサービスが受けられるパスポートがもらえる。
江ノ電は「台湾からの観光客をエリア全体で迎える」と自社だけでなく地元観光協会などとも連携。部門賞受賞は、こうした取り組みが評価された。
8月までに江ノ電が引き換えたパスポートは86冊。同様の事業を展開する台湾北部のローカル線・平渓線からの利用は同期間で800冊を超えており、江ノ電の担当者は「高雄では取り組みが知られていない」と次の一手を模索する。
一方、高雄メトロでは首都圏の他の鉄道会社とのキャンペーンも含めて約300冊。訪台日本人観光客が年間約190万人に上る現状を踏まえ、こちらも認知度向上を課題に挙げる。