
多くの観光客の姿が絶えない小町通り。鎌倉駅東口から鶴岡八幡宮まで約360メートルの道沿いには、土産物店や飲食店など250以上の店が軒を連ねる。
1897(明治30)年創業の東洋食肉店も、そのうちの1軒。生まれも育ちも鎌倉の3代目店主、小松可孝さん(75)は「昭和の時代は八百屋や魚屋があり、地元の人が来る通りだった。だいぶ変わった」と懐かしむ。
名物の焼き豚入りのちまきは観光客の増加に合わせ、売り出したもの。店先からの景色や、扱う商品は少しずつ変わってきたが、それでも小松さんは「50年近く来てくれる古いお客さんもいる」と目を細めて笑う。
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古くから保養地として注目された鎌倉。市制80周年を迎えた市の軌跡は、インフラ整備とともに発展してきた観光都市としての歩みとも重なる。
市内を訪れる年間の観光客数は、統計を取り始めた1963(昭和38)年が約1562万人。天候などで浮き沈みはあるものの、今は国内外から毎年2千万人前後が足を運ぶ。ただ、市民生活は市街地の混雑や幹線道路の渋滞といった少なくない影響を受けている。
市の2016年の第3期観光基本計画によると、面積当たりの入り込み客数は京都市の約8倍、横浜市の約5倍。狭い市に多くの人が訪れる上、鶴岡八幡宮や長谷寺といった名所には日中、客足が集中する。
市は対応に躍起だ。春の大型連休時は江ノ島電鉄と協力し、電車混雑時に沿線住民らを優先入場させる社会実験を3年間実施。観光客を分散化するため、映画に登場するスポットを紹介する看板の設置などにも取り組んでいる。
しかし、市が導入を目指す、車両に課金して流入抑制を図る「ロードプライシング」は徴収方法に課題を残し、目標の20年度実施は困難とみられる。「観光公害」への対策は道半ばだ。
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まずは足元から改善していこうという動きがある。約230店舗が加入する小町商店会は、混雑時の食べ歩きやごみのポイ捨てなどが目立つ観光客のマナー向上を目指す。
今年4月、啓発ののぼり旗を40本作り、通り沿いに掲示。次は、ごみや購入したものなどを入れる「おもてなし袋」を配る試みを考えている。
「単なるごみ袋ではない。マナーを守ってというメッセージを袋を通じて伝えたい」。商店会の副会長で、1924(大正13)年の創業から地元に愛されている玩具店「おもちゃのちょっぺー」の3代目今雅史さん(71)はその狙いを説く。
地域外資本の出店などを背景に入会率は落ちているが、今さんは「小町通りをどうしていくか、新しい店とも一緒に考えたい。ここの良さは横のつながり」と言って続けた。「市民や観光客が鎌倉の魅力を体感できるまちにできたら」
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3日、市制施行80周年を迎えた鎌倉市。古都の暮らしや営みはどう変わってきたのか、そして変わらぬものとは。昔を振り返り、今を見つめる。