箱根寄木細工伝統工芸士の本間昇さん(85)の足跡をたどる「寄木に生きた70年の歩み」展が15日、箱根町湯本の本間寄木美術館で始まる。16歳で父に師事し寄せ木職人の道に入って70年。昨年開催された第63回日本伝統工芸展に初出品し、84歳にして新人賞を受賞したことで注目を浴びた作品「神代(じんだい)桂菱(かつらひし)紋重(もんかさね)糸目筋(いとめすじ)箱(ばこ)」も並んでいる。
日本伝統工芸展は国内最大規模の公募展。昨年は約1600点の応募があり、600点余が入選した。このうち入賞はわずか16点と狭き門で、本間さんの作品は新人賞に選ばれた。
作品は、箱根寄木細工の文様に少し変化を加えた菱形に寄せた板に、数百年以上前の古い木材である「神代桂」を貼り、糸目筋に溝を掘って文様を透かせるようにのぞかせた。講評では「精緻にして端正。昭和6年生まれであるが初出品ということで新人賞となった」とされ、全国を回った展覧会を見た人たちからは「寄せ木のイメージが変わった」という声が数多く届いたという。
会場には江戸期の作品に典型的な乱寄木の技法を学ぶために作った複製作品のほか、鎌倉彫や江戸独楽などの作家と協力した寄せ木人形など約150点を展示している。
本間さんは、国の伝統的工芸品の指定(1984年)を受けるため、町が借り受けた江戸期の寄せ木作品を学ぼうと複製に挑戦。そのことが寄せ木の進化や脱皮を目指す気持ちを生み、海外に流出した寄せ木細工の優品を収集展示する美術館設立につながったという。
「箱根の寄せ木の名を広めたい、価値を高めたいと思ってただやってきた。自分が道しるべになって次の世代にも良い影響が出れば」と本間さん。同展では本間さんの作品以外に収集品も一部見られる。
11月26日まで。入館料大人500円、子ども300円。問い合わせは同美術館電話0460(85)5646。