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歌丸さんからのファンレター 「真金町クワシク書いて」

話題 | 神奈川新聞 | 2019年7月1日(月) 05:00

桂歌丸さんが山崎さんに宛てた“ファンレター”
桂歌丸さんが山崎さんに宛てた“ファンレター”

 81歳で昨年亡くなった落語家の桂歌丸さんが生前、横浜を舞台に歴史小説などを発表している作家の山崎洋子さん(71)に宛てた“ファンレター”が30年以上の時を経て見つかった。希代の噺家(はなしか)だった歌丸さんが読書家でもあり、推理小説の熱心なファンだったことをうかがい知ることができる貴重な資料といえそうだ。7月2日は歌丸さんの一周忌-。

「桂歌丸ひょうちゃん」

 山崎さんは1986年、デビュー作の推理小説「花園の迷宮」で第32回江戸川乱歩賞を受賞し、一躍人気作家の仲間入りを果たした。当時、出版社を経由して山崎さんの手元に大量の愛読者カードが届く。その中に「桂歌丸、50歳、落語家」としたためられた1枚があった。このカードは、正賞として山崎さんに贈られたシャーロック・ホームズ像の収納箱にしまっていたが、いつしかふたが硬く閉まってしまい、今春の引っ越しの際に業者に開けてもらってようやく“再会”した。

 歌丸さんは、同書を買い求めた理由について「毎年、乱歩賞作品を楽しみにしているので」とし、これまでの乱歩賞の受賞作の中で読んだ作品は「全部」と記した。

 「あなたの好きなミステリー作家を教えてください」の欄には、西村(京太郎)、斎藤(栄)、高木(彬光)、伴野(朗)、井沢(元彦)、中津(文彦)、東野(圭吾)、長井(彬)、横溝(正史)、日下(圭介)と10人の名前を挙げた。

 「花園の迷宮」は、昭和恐慌と相次ぐ凶作で日本中が疲弊した30年代初頭、色街だった現・横浜市南区真金町の架空の遊郭「福寿」が舞台。日本海に面した若狭湾の小さな漁村から身売りされた17歳のふみの周囲で不可解な殺人事件が次々と起こる。ふみは友人の美津が殺されたことで、この事件の謎に迫っていく。

 歌丸さんは感想を欄内にぎっしりと書き込んでいた。

 〈真金町で生(うま)れ今でも同地に住んで居る小生には、大変なつかしく読ませて頂きました。又(また)、小生の家は、真金町の中で楼をやっていたため、これもなつかしかったでス〉
 真金町にあった遊郭「富士楼」の一人息子として36年に生まれた歌丸さんは自身の体験を振り返り、さらに筆を進めた。


桂歌丸さんからの“ファンレター”を手にする山崎さん=横浜市金沢区(画像の一部を修整しています)
桂歌丸さんからの“ファンレター”を手にする山崎さん=横浜市金沢区(画像の一部を修整しています)

 〈ただ、もう一寸(ちょっと)、クルワ(遊郭)の事を真金町の事をクワシク書いて頂きたかったと思っていまス。一言、クルワはそんなに暗い所じゃなかったでスよ。親兄弟のためと云(い)う女性は、本当は、少なかったんでス〉
 そして欄外には、山崎さんの労をねぎらう言葉が添えられていた。

 〈著者によろしく〉
 山崎さんはファンレターを手に「歌丸さんが本当に推理小説が好きだったんですね」と何度も読み返す。「男性が遊郭を書くとロマンになる。女性は公娼(こうしょう)がどれだけつらいことかということが分かるのだから、その視線で書いた」と執筆時を振り返り、在りし日の故人をしのんだ。

 「歌丸さんも常に弱い人たちに寄り添った。遊郭があった真金町で生まれ育ったことを隠そうとはせずに庶民生活に根付き、下町で生きていた人たちを見続けてきた。歌丸さんはそのような下町を愛してきた人だった」

 
 

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