京急線横須賀中央駅前のレコード店「ヤジマレコード本店」(横須賀市若松町)が、31日に閉店する。前身の蓄音機店の時代を含めると1世紀の歴史を誇り、「X JAPAN」のギタリストとして活躍したhideゆかりの地としても知られる老舗だ。若者のCD離れが進む中で下した苦渋の決断。横須賀の名物がまた一つ歴史に幕を下ろし、同店を愛してやまないファンからは別れを惜しむ声が上がる。
地下の売り場へと続く階段には、hideのパネルやポスターが所狭しと並ぶ。レジ近くには、ファンが置いていった大小さまざまな人形が飾られている。
1998年の死後、横須賀出身だったhideが学生時代に通っていた場所として知られるようになり、ファンの“聖地”となった。今でも誕生日や命日には全国からファンが集まり、台湾や韓国など海外からの訪問者も多い。
「数え切れない思い出がある場所」。10年ほど前からほぼ毎週、店に通う会社員の根本和季さん(33)=同市上町=は感慨に浸る。
店で出会った遠方からのファンに、hideの実家やデビュー前に異国の音楽に触れた米海軍横須賀基地近くのどぶ板通り商店街を案内。今でも連絡を取り合う仲間ができた。
同店は100年ほど前に蓄音機店として開店。駅前に位置する比較的大きなレコード店として、多くの音楽ファンが足を運んだ。かつては栄えたレコード業界も、インターネットで音楽がダウンロードできるようになると衰退。同店も例外ではなかった。
高校時代にアルバイトを始めてから同店を見つめてきた前田郁美店長(57)は「スマートフォンが普及した5年ほど前から、客離れが顕著になった」と話す。全国的にレコード店の廃業が続く中、同店も閉店を決断した。
「ヤジマレコード」と大きく書かれた駅前に建つビルは長年街のシンボルでもあった。「初めてレコードを買った店」と語る客も多い。
横須賀では、昨年に旧海軍ゆかりの料亭「小松」が焼失、今夏には横須賀をカレーの街として一躍有名にした「魚藍亭」が閉店するなど、地域を象徴する老舗が相次いで姿を消す。
6月中旬に店のツイッターで閉店を公表してから1カ月以上。インターネット上では「寂しい」「お疲れさま」と惜しむ声が今も絶えない。
「また一つ横須賀の歴史が消えた」。閉店を聞き付けて訪れた住民の声に、前田店長は「ヤジマレコードも横須賀の歴史の一部として捉えてもらえた」と振り返り、地元への感謝の思いを募らせている。