鎌倉市出身・在住の1級建築士田辺雄之(ゆうじ)さん(41)が、英国ロンドンの歴史ある芸術機関「ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ」が開催する展覧会の建築部門で日本人で初めて、新人賞に当たる賞を受賞した。図面を芸術作品ととらえるユニークな選考で、抑制のきいた色使いや表現が評価された。地元鎌倉のまちづくりにも携わっている。
アカデミーは1768年に設立。毎年開かれている夏の展覧会(サマーエキシビション)はことし249回目で、絵画や彫刻など全部門で計1千点以上が選出された。建築部門は、コンピューターで制作する図面を一種の作品ととらえ、美しさや芸術性を競った。
出品したのは7年前に手掛けた千葉県内の集合住宅「フラワーアパートメント」。上から見ると4枚の花びらが開いたようなつくりで、プライバシーが保たれる住まいを目指し、周囲に花畑や果樹園が広がる立地から着想を得た。
田辺さんは「お客さんに建物の魅力や良さを伝えなくてはいけない。だから図面は分かりやすさが必要。そのために美しさが絶対に大事で、そうしてできた建物も美しい」と強調する。
出品のため、当初書いた線の太さや色をあらためて調整した。野原や春、菜の花をイメージし、日本の伝統的な色から選んで着色。審査員からは、線一本一本の意味を理解した上でよくコントロールされ、抑えた表現がなされている点が評価されたという。
鎌倉の由比ガ浜や長谷で育った。「角を曲がるたびに違う景色が現れる小道や街並みが原風景」だ。2008年に独立し、市内に建築事務所を構えて以降、地元での仕事も少しずつ増え、湘南モノレールの駅改修にも携わっている。「多くの人にめでられる建物を造りたい。愛するこの街を、デザインでより良く変える手伝いができたら」