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友好の桜再び米へ 相模原出身・尾崎行雄ちなんだ苗木

話題 | 神奈川新聞 | 2019年4月1日(月) 13:19

ホームズ俳優の屋敷跡に植樹


梱包した咢堂桜の苗木22本を輸送業者に手渡す大橋孝夫事務局長(左)=相模原市緑区又野の尾崎咢堂記念館前
梱包した咢堂桜の苗木22本を輸送業者に手渡す大橋孝夫事務局長(左)=相模原市緑区又野の尾崎咢堂記念館前

 相模原市出身で「憲政の神様」と呼ばれた政治家尾崎行雄(咢堂(がくどう))が米国に贈った桜の「孫」に当たる苗木22本が今月、米国に向けて送り出された。行雄の弟の行隆が米国移住後に執事を務めた俳優ウィリアム・ジレットの屋敷跡と、行隆が眠る墓地の2カ所に植えられるという。寄贈に尽力した同市の市民団体は、名探偵シャーロック・ホームズを演じた名優との不思議な縁を結ぶ「咢堂桜」の開花を心待ちにしている。

 市民団体「尾崎行雄を全国に発信する会」(同市緑区、天野望会長)が今月18日に発送した。


米国へ贈る咢堂桜の苗の梱包作業をする「発信する会」役員ら(同会提供)
米国へ贈る咢堂桜の苗の梱包作業をする「発信する会」役員ら(同会提供)

 同会によると、いずれも米コネチカット州ハートフォード市にあるジレットの屋敷跡の州立公園に20本、行隆が眠る墓地に2本植樹される。日米友好のため、在ボストン日本総領事館が苗木代などを、米農務省検疫所が輸送費をそれぞれ負担するという。

 尾崎行雄は1888年、当時の保安条例によって東京退去を命じられ、弟の行隆とともに海外視察の旅に出た。米国に渡った後、行雄は英国へ向かうが、行隆は米国にとどまった。

 英語が堪能で演劇に興味を持った行隆は自ら舞台に立ったが、後にジレットの屋敷の執事となり、日本に帰国しないまま1942年に没したという。

 ジレットは1900年前後に、主に舞台でホームズを演じた俳優で、吸い口の大きく曲がったパイプやマントなどホームズのイメージを決定づけたとされる。著者のコナン・ドイルがシリーズを書き続けていた時代で、ジレットの舞台にはドイルとジレットとの共同脚本もあったという。


米国に贈る苗木の元となる接ぎ木を採取した相模原市立又野公園(同市緑区又野)に咲くソメイヨシノの咢堂桜(2016年撮影、「発信する会」提供)
米国に贈る苗木の元となる接ぎ木を採取した相模原市立又野公園(同市緑区又野)に咲くソメイヨシノの咢堂桜(2016年撮影、「発信する会」提供)

 寄贈は、ニューヨーク在住の俳優平井たくさんが昨年9月、行隆を演じる一人芝居をハートフォード市で公演したことがきっかけ。上演準備などに関わった同市の日本協会(本郷雅道会長)が尾崎兄弟にちなんだ桜を植えたいと「発信する会」に連絡し、22本を贈ることになった。

 米国では病虫害防止のため、通常は桜の苗木の輸入は禁止になっており、一時は断念する考えもあったという。ただ日本協会が米農務省に働き掛けたところ、根の土壌を取り除いて虫害をなくすことなどで計画がまとまった。

 日米友好の証しとして、行雄がワシントンのポトマック河畔に桜を贈ったのは東京市長時代の1912年。その80年後の92年に旧津久井町が、その「子」に当たる桜を育成していた東京都足立区から苗木4種32本を受け取り、咢堂桜と名付けて町内の公共施設などに植樹した。さらに「発信する会」では昨年から咢堂桜のうち、ソメイヨシノを茨城県内の園芸農家で育てており、今回贈る育成中の苗木は「孫」に当たる。

 米国に渡った苗木22本は、2年間ほど病虫害が出ないことを確認した上で、日本協会に引き渡されるという。これまで地元の学校などに苗木を配布してきた「発信する会」の大橋孝夫事務局長は「偶然の縁から広がってきた交流で感慨深い」と、新たな桜の寄贈を喜んでいる。

 
 

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