
カーネギー・ホールの真上に住む天才ピアニストのドクター・シャーリー(マハーシャラ・アリ)=写真右、イタリア系白人の用心棒トニー・リップ(ビゴ・モーテンセン)=同左。二人は実在の人物だ。
「ディープサウス(南部)へツアーに行く」-。物語の冒頭、黒人であるシャーリーの言葉は重く響く。1960年代、差別が根強く残る米国南部へ黒人が向かうことは、命懸けの行動だった。
道中、シャーリーはさまざまな差別や暴力に直面する。市民、警察、彼の演奏会を企画し、一見リベラルとみられる上流階級の人々も「トイレは別に」「レストランに入るな」と、黒人差別を平然と行う。
「グリーンブック」とは、36~66年に発行された黒人が利用可能な施設を記した旅行ガイドブックのこと。二人は、このガイドブックを手に南部を回るが、そもそもなぜシャーリーは危険を感じながらも南に向かうのか-。
トニーもまた黒人を「ニガー」とさげすむコミュニティーで育った。育ちも性格も正反対の二人の旅は、最後どこへ行き着くのか、ラストまで目が離せない。
「俺はこの世は複雑なことを知っている」。シャーリーのある秘密を知ったトニーがさらりと言う。シャーリーの勇気とトニーの寛容さに心救われる本作は、2019年アカデミー賞作品賞に輝いた。