東武ワールドスクウェア(栃木県日光市)の東京スカイツリーのミニチュアや国内初の宅配ピザ配達用の屋根付き三輪バイクを手掛けた造形美術会社が、川崎市高津区久地の町工場が並ぶ一角にある。社員13人の有限会社「アトリエ・ゼロ」。神野和夫社長(71)は「独創的な製品を生み、生活に癒やしや潤いを与えられたら」と話し、現在はミニチュア作りの技術を生かしたテーブル型ジオラマを開発している。
同社は、強化繊維プラスチック(FRP)加工に強く、1978年、美術品用の装飾額縁を世に出した。「西欧の額縁の装飾は見事だが、石こうのために壊れやすかった。これを初めてFRPで作った」。さらにその加工技術を使ってみこしを製作。「従来のみこしの半値でできたため、新興住宅地の自治会などから注文があり、2~3年ブームになった」という。
神野社長がバイク好きということもあり、「銀行マンが排ガスでワイシャツが汚れないように」と屋根付きの全天候型スクーターを開発。「銀行からのニーズはなかったが、宅配ピザチェーンが目を付け、協力工場で製造して10年間売り続けた」とヒットを飛ばし続けた。
その技術力が映画会社の東宝の目に留まり、同社が企画などを担当し進めていた世界の有名建築物のミニチュアを展示する東武ワールドスクウェアに参画。1993年にオープンした同園では、25分の1の大きさの東大寺や京都御所を制作した。その耐久性などが評価され、メンテナンスを請け負うようになり、現地に分室を設置。ベルサイユ宮殿などはアトリエ・ゼロが造り直した。
中でも人気なのは、東京スカイツリーのミニチュア(高さ26メートル)。人形が置かれているが、書類を風で飛ばされる会社員など、ストーリーを持たせているのも魅力だ。
現在は、テーブル型(直径約80センチ)の鉄道ジオラマを開発中。「老人ホームのお年寄りが集まる場所に置きたい。駄菓子屋など昭和の景色で昔を懐かしんでもらい、会話が弾めばぼけの防止につながる」など回想法の効果を期待しているという。用途に応じた4種を試作し、リースでの貸し出しなどを検討している。
「人がやらないこと、やってはダメといわれたことを続けたい」。神野社長のものづくりへの挑戦は続いている。