日曜の昼下がり、鶴見駅の鶴見線ホームは静まり返っている。黄と空色のラインが入ったステンレス車両は乗客もまばらだ。乗り込むとファストフードの油のにおいがした。若者が一人、ハンバーガーとポテトフライをほお張っている。
鶴見駅から京浜工業地帯に切り込む鶴見線は、工場の従業員が乗客の大半を占める。時刻表を見ると、朝夕以外の運転間隔は例えば浅野―海芝浦駅間で50分~2時間。通勤時にフル稼働する代わりに、日中は恐ろしくゆったりした時間が流れる。
休日の午後ともなれば、ことさら、だろう。いったい誰が利用するのか。車内を見渡せば、数少ない乗客は、工場関係者のようにも見え、皆、鉄道ファンのようにも見える。
鶴見駅から弁天橋駅まで6分。同駅で後続の海芝浦行きを待つこと約50分。弁天橋駅から15分で海芝浦駅に着く。
紀行作家の宮脇俊三氏は、「好きな駅・気になる駅」として、音威子府駅、小樽駅、新庄駅、弥彦駅、糸魚川駅、米原駅、吉松駅などとともに、海芝浦駅を挙げた。「ホームの柵の下は海、京浜運河である。貨物船が行き交い、対岸の扇島に石油タンクが並んでいる。日本的なものの全然ない国籍不明の眺めだ」。初めて降りたとき、オランダ・ロッテルダムに来た錯覚を覚えた、という。
間近で見る京浜運河は緑色を帯びていた。乗客の中にいた若い女性の2人連れが、ホームに降りると、リュックから缶ビールを取り出した。「かんぱーい!」。鉄子さんたちだった。(S)