木造校舎の魅力に引かれ、小学生のころから全国各地で撮影を続ける横須賀市の角皆(つのがい)尚宏さん(27)が、これまで訪ねた校舎を紹介した「日本木造校舎大全」(辰巳出版)を出版した。老朽化や火災で年々姿を消す木造校舎。子どもたちの成長を見つめてきた木肌のぬくもりを残そうと1ページずつに思いを込め、亡き父に捧げる一冊だ。
角皆さんが木造校舎に魅せられたのは、5歳のときに見た映画「学校の怪談」がきっかけ。ギシギシと音をたててきしむ階段、隙間風で揺れる木枠窓…。何とも言えないその雰囲気にほれ込んだ。
小学6年生の時、夏休みの自由研究として、本で見て憧れていた群馬県の小学校を訪ねた。初めて見た木造校舎の趣に圧倒され、以来父親と全国各地を巡り始めた。
それから15年がたち、これまでに訪れた木造校舎は1200カ所を超える。その一部を紹介した著書では、多くの人に魅力を知ってもらおうと、校舎の外観だけでなく、階段、げた箱、人体模型など子どもたちの思い出を感じさせる写真をふんだんに添えた。
木造校舎が年々姿を消す現状には、やるせない思いがある。「少し前の自分だったら、何が何でも後世に残してほしいと思っていた。でも、東日本大震災後、安全面や財政面の問題から、壊してしまう理由も分かった」。だからこそ、「微力ながら、記録物として多くの人に見てほしい」と語る。
出版では、2年前に65歳で急逝した父に感謝を込める。小学4年生の時、いじめをきっかけに不登校となり、引きこもりがちな生活が続いた。自分の趣味にとことん付き合ってくれたのは、「木造校舎なら外に出るだろう」と思っていたからだと、後に母から聞かされた。
木造校舎がない沖縄県を除く46都道府県を訪れる“全国制覇”は父との約束だった。死後間もなく達成した時は、隣に父がいるかのように「やったよ」と思わず口にした。
「父の協力なしでこの本はできなかった」。天国から見守ってくれている父とともに、これからも消えゆく校舎の記録を続けるつもりだ。