第2次世界大戦中、陸軍将校が地図上に戦術を練る際に使ったとみられる“チョーク”が、古文具収集家のコレクションから見つかった。1937年設立のチョークメーカー「日本理化学工業」(川崎市高津区)が、創業初期に製造した「キットパス」だ。「実際に軍隊で使われていた文具は珍しく、資料価値は非常に高い」(古文具収集家)といい、同社も「話は聞いていたが実物は初めて」と驚きを隠さない。
「図上戦術・作業用」「陸軍御用」…。
少し色あせ、所々が傷んだ箱には、商品が軍用品だったことをにじませる文字がいくつも並ぶ。宣伝文句や特徴なども、当時の時代背景を物語っている。
販売店として書かれた商店の住所は東京・市ケ谷。かつて陸軍士官学校や陸軍省などが置かれ、現在も防衛省が立地する地区だ。陸軍御用の文字からは、物資を調達する軍が“得意先”だったことがうかがえる。
表面には「書きよい 附(つ)きよい 消えよい」との言葉が並び、裏面には「在来品の様にもろくなく、書き心地が良い」「消すのが容易で跡を残さず、地図面を汚さない」とも。
未使用状態のチョークは長さ5センチ、直径3ミリほどの細長い形状。1箱に青とオレンジの2色が各3本入っている。品質はチョークに近く、同社4代目の大山隆久社長(46)は「消して残らなくて良いということで、情報漏えい対策で使ったのでは」と推測する。
商品は、初代社長で大山社長の祖父・要蔵氏が生み出した。3代目で父の泰弘会長(82)から、戦時中に「キットパス」という商品があったことは聞いていたという大山社長。「実物を見たときは涙が止まらないくらいうれしかった。会ったことのない祖父と会えた気がした。うちの宝だ」
出合えたのは、古文具収集家の女性・たいみちさんが昨年2月、「(包装は)地味だけどかわいくて」と、骨董(こっとう)市で千円ほどで手に入れたのが、きっかけ。今春、都内で開かれた「大正・昭和アンティーク文具展」に出展されることを同社が知り、たいみちさんに連絡。寄贈を受けた1セット(2箱)を、ガラスケースで大切に保管している。
同社は10年ほど前から、同名の固形マーカーを製造販売。窓ガラスに描いても消せるのが最大の売りで、初代キットパスはその原形といえそうだ。
「当時のキャッチコピーも今の商品と同じ。今に通じている」と大山社長。戦後はいったん姿を消したが、次の世代がキットパスの名を未来へと伝える。
大山社長は言う。「祖父がいたから今、われわれが商売を続けられている。キットパスをこれからも大きく育てていきたい」
戦時を語る「陸軍御用」チョーク 川崎のメーカー製品発見
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収集家のコレクションから見つかった戦時中の“チョーク [写真番号:893730]
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戦時中の“チョーク”を手にする大山社長=川崎市高津区の日本理化学工業 [写真番号:893731]
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日本理化学工業が販売する現在のキットパス [写真番号:893732]