大きな衝撃と犠牲者への鎮魂の祈りが世界に広がるパリ同時多発テロ。過激派組織「イスラム国」の犯行と断定され、県内のイスラム教徒(ムスリム)からは、卑劣な行為がイスラムの教えと同一視されることへの怒りや、激化する報復への懸念の声が上がる。「憎しみからは何も生まれない。全世界に生きる一人一人が考えなければならない問題だ」。空爆、テロといった暴力の連鎖を断ち切るために-。
17日午後8時。夜の礼拝が行われた「海老名モスク」(海老名市)には、仕事帰りのムスリムたちが市内外から続々と集まり、祈りをささげた。
「フランスだけでなく、世界中で殺された人々に対して毎日お祈りをしている」。同モスクの副責任者でスリランカ出身のモハメド・ヌフマン・シディクさん(48)は言う。
スリランカ出身のモハメド・ファイザルさん(42)=同市=は「1人の人間を殺すことは全人類を殺すことと同じである」という教えを持つイスラム教と過激派組織との違いを強調し、「彼らはムスリムではない」と憤る。
そして、テレビで「イスラム国」という名前が繰り返し報じられることを踏まえ、こう続ける。「イスラム国=イスラム教ではないとみんなわかってきていると思うけれど、差別や偏見が広がる不安もある」
横浜市都筑区のイスラム寺院「ジャーメ・マスジド横浜」(横浜モスク)の運営委員でパキスタン出身の林アルタフさん(55)=川崎市高津区=は、「イスラムを名乗っているだけで本当に迷惑」としつつ、「彼らを理解できない存在として排除するのではなく、根源に何があるのかを考えなければならない」と訴える。
テロを受け、フランス空軍はイスラム国がシリアで首都とするラッカを空爆した。アルタフさんが続ける。「憎しみや不信を繰り返すばかりでは何も変わらない。社会に根深い問題があることを宗教、人種関係なく理解しようとするべきではないか」