「教科書通りに言えば、収支均衡でやっていくのが望ましい。ただ(財源が足りずに)市民サービスに影響が出ないようにする緊急避難的な措置でもある」
川崎市の福田紀彦市長は今月8日、2016年度当初予算案の会見で減債基金から92億円を借り入れて収支不足に対応した点を問われ、こう理解を求めた。
市は近年、市税収入が右肩上がりで増える一方、国からの地方交付税や臨時財政対策債は低く抑えられ歳入全体がさほど増えず、収支不足を減債基金の借り入れで埋める対応を繰り返してきた。12年度からの累計額は231億円に上る。6年後の22年度から毎年20億円ずつ返済していく計画だ。
だが減債基金は本来は市債償還財源である。借り入れが続けば財政規律を緩めかねない。市議会にも「場当たり的な財政運営から早く脱却を」との声が強い。
「市民の将来負担を考えない公約実現ありきの予算案」。そう評するベテラン市議は「待機児童、中学校給食といった市民受けする公約の実現が全てに優先され、都市経営の視点が欠けている」と手厳しい。
予算案と同時に市が公表した長期の収支見通しを見ると、この先も綱渡りの財政運営が予想される。まず大型の建設費負担が集中する17年度は191億円もの収支不足。19年度に収支均衡に転じる見通しには昨年12月の国の税制改正が冷や水を浴びせた。法人市民税の国税化や地方消費税交付金への軽減税率の影響が新たな減収要因になるからだ。市財政課は「一息つけるかと考えていたが、厳しい状況が続く」と気を引き締める。
中長期を展望すると高齢化で確実に扶助費が増え、老朽化した公共施設の修繕費も膨らむ。「家庭でいえば可処分所得が減り、自由に使える金が少なくなる状況だ」(市幹部)。その一方で本庁舎建て替えやJR南武線連続立体交差事業、羽田連絡道路整備などの大型事業も数多く控える。
歳出改革や行財政改革が課題となっているが、予算案と同時に発表した行財政改革計画の市議会受けは良くない。職員の意識改革など行政組織の「質的改革」を重視する一方、補助金切り下げや公共施設などの使用料引き上げといった市民に負担増を求める検討項目が目立つからだ。
「市民に痛みを求める前に行政組織に量的改革の努力を」。市議らの厳しい意見に対し、市幹部は「阿部孝夫前市長の時は必要な財源を考え、その隙間を行革で埋めた。ただ職員数を減らし続けて、もう人件費を削減できる余地は少ない」と話す。だが少ない量的改革の余地として、直営の家庭ごみの収集運搬業務の民間委託の検討などは焦点の一つに浮上しつつある。
「より厳しい財政状況と認識しこの先も緊張感を持って臨む」と会見で語った福田市長。持続可能な自治体経営の解をどう導き出すかが問われている。