
「欧米もアジアも高齢化が進み、医療産業が必要とされている。ここはロケーションが良い。科学技術に国境はなく、国内外の企業や大学と連携したい」
川崎市川崎区殿町3丁目地区にあるナノ医療イノベーションセンター。昨年11月の会見で、片岡一則センター長は窓越しに羽田空港を見ながら同地区の将来性に期待感を示した。
薬剤を包んだナノサイズのカプセル(ナノ粒子)ががん細胞などの患部を狙い撃ちするナノマシン研究で知られる。夢の「体内病院」の実用化に向け、複数企業が開発に取り組み、海外からの訪問客も少なくない。多摩川対岸を結ぶ羽田連絡道路が2020年にできれば、世界とのつながりがさらに広がるわけだ。
ライフサイエンス(生命科学)分野の研究機関が集積していく殿町地区(約40ヘクタール)。16年度は国立医薬品食品衛生研究所などの主要施設が相次いで竣工(しゅんこう)し、17年度に地区がほぼ完成する見通しだ。
「集積から、拠点価値を高めていく段階に入っていく」。市臨海部国際戦略室がそう話す取り組みが16年度当初予算案には並ぶ。慶応大と連携して地域マネジメントを強化し、地区内外との異分野融合や研究人材育成などの推進事業(2300万円)や、電線地中化などまちづくりの検討(1400万円)などだ。国内外の研究者やビジネスマンの来訪増に備えた態勢づくりともいえる。
このほか石油需要が減り、統合が進む石油化学コンビナートを含めて臨海部全体の戦略づくりにも着手する(800万円)。トラック工場跡地だった殿町地区が転換を遂げたように、将来にわたって産業競争力を維持できる戦略を立地企業と2年間かけ「臨海部ビジョン」にまとめる。
殿町地区への政策は「市内中小に恩恵がない」との声もあるが、市幹部は「国内外とつながった研究開発が活発化する中で、市内の中小のものづくりとの医工連携にもつなげていきたい」と話す。
市内経済は全体に上げ潮基調にある。従業員数はここ5年で8%増えており、東京23区の1%増、横浜市の3%増を大きく上回る。20年五輪東京大会の決定も追い風である。
「成長戦略はまちづくり全体で勝負する時代に入った。働く人の暮らしや余暇まで考え、地域価値を高めていくことが必要だ」。こう力説する市幹部は成長力を持った多摩川沿いの拠点群に注目する。
羽田空港と殿町地区から上流にさかのぼると、JR川崎駅、大田区の中小企業群、新川崎・創造のもり地区、首都圏屈指の人気エリアの武蔵小杉駅周辺、下野毛地区など中小企業群、そして楽天本社が進出した二子玉川ライズ。市幹部は力を込めた。
「これだけの集積があるエリアだ。時機を逃さず、点を面にしていくような連携やまちづくりを進めることも川崎の力強い産業都市づくりになる」