
週刊誌の金銭授受疑惑報道から1週間。再び浮かび上がった「政治とカネ」の問題は、安倍晋三内閣の屋台骨を支えた甘利明経済再生担当相(衆院13区)の閣僚辞任へと発展した。「政治家としての矜持(きょうじ)…」。声を詰まらせた突然の辞意表明に、疑惑の舞台となった大和市の事務所には激震が走り、テレビで会見を見守った有権者は表情を曇らせた。「情けない」「残念」。大臣のお膝元は、さまざな声が交錯した。
「世間を騒がせてしまい、十分に反省している」。甘利氏が辞任した28日夕、現金の受け渡し現場となった大和市桜森3丁目の事務所には、多くのメディアが詰めかけた。甘利氏を支えるべき身内が結果的に足をすくった形となり、対応した事務所の男性職員はこう答えるのがやっとだった。
建設会社から受け取った500万円のうち300万円を私的に消費したという公設秘書はこの事務所の所長。上司の不適切な会計処理に「いま調査しているところで、われわれも全く分からない」と困惑した。一連の報道以来、この秘書からの連絡はないという。
甘利氏の辞意については、事務所側も会見のテレビ中継で初めて知ったといい、「全く知らなかった。みんな、びっくりしている」と驚きを隠せなかった。ただ「大臣が決断したことなので、われわれは粛々とやっていく。これから一から立て直すつもり」と自らに言い聞かせるように話した。
辞任報道後は、支援者から問い合わせが相次ぎ、対応に追われた。詳細については後援会を通して説明していく方針という。
地元支援者「信じていたが…」
「地元の宝だったが政治とカネに絡む問題はアウト。辞任はやむなしだ」。テレビで会見を見守っていた大和市内に住む男性支援者は、声を落とした。
環太平洋連携協定(TPP)の大筋合意にこぎ着け、政権の屋台骨を支えてきた甘利氏の突然の閣僚辞任は、地元支援者に激震を引き起こした。
綾瀬市に住む後援会員の男性は「少なくともTPPの調印式まではやると思っていた。TPPの問題では代わりのいない人。国のことを考えると続けてほしかった」と残念がる。後援会幹部の男性も「閣僚の中でも別格の存在。辞任となれば国益を損ねる。後援会会員から心配する声が殺到していた。みんな信じていたのだが」と声を落とした。
後援会の男性幹部は「身内の不始末だから、われわれも襟を正して再出発しないと」と語る。
問題となっている公設秘書を知る支援者の男性は「(秘書の)身なりは派手ではなく、むしろ質素。だから、300万円の私的消費はまさか、と思った。真面目で領収書の管理はきっちりしていた。魔が差したのだろうか」といぶかしむ。
一方、別の支援者は秘書への監督責任に言及する。「責任感の強い人だから、秘書の問題とはいえ、責任を取ったのだと思う。情けないし、非常に悔しい」と話した。
地元有権者の反応もさまざまだ。大和市内の男性は、政治とカネの問題で繰り返し混乱してきた国政の現状に不信の目を向ける。「説明責任は十分とは言えず、いくら『秘書が』と繰り返しても上の者として責任を取るのが当然。辞任した後も説明責任をしっかり果たしてほしい」と憤る。
同市内の女性は「体を壊しながらもTPP交渉に臨んでいた大臣だけに非常に残念。今回の辞任は潔いと思うが、今まで投票して応援してきただけに失望も大きい」と話した。
秘書の不祥事「自覚足りぬ」
突然の閣僚辞任に、かつて甘利明氏の秘書を務めた地方議員は、一様に険しい表情で想定外の事態を受け止めた。「活躍していたので残念だ」。疑惑で取り沙汰された寄付金のうち100万円を自身が代表を務める自民党支部で受領した県議は、返金する意向を表明。一方、事務所の内実を知る関係者は、秘書の不祥事に「自覚が足りない」と苦言を呈した。
「代議士の口から監督責任という言葉を使わせてしまったのは、元秘書として残念に思う」。市川和広県議(藤沢市)は苦渋の表情を浮かべ、秘書の行為とはいえ「辞任は仕方ない」と語った。
甘利氏の元秘書で大和市選出の藤代優也県議は「まだ本人と話していない」とした上で、千葉県の建設会社から自身が代表の政党支部が受領した100万円については「返金する」と説明。「元同僚」の不祥事を重く受け止め、今後の調査を見守る考えを示した。
一方、甘利事務所をよく知る関係者は「秘書の身勝手な行動で長年の積み重ねが全部壊れてしまう、その自覚が足りない」と指摘。今の秘書らは当選に四苦八苦していた時期を経験せず「大臣の事務所」として安定した時期しか知らないとし、「周囲が気を使う知名度抜群の事務所」という気の緩みが今回の事態を招いたとの見方を示した。