
約80人の聴衆を前に壇上の女子高校生の手は震えていた。意を決したように川崎市の福田紀彦市長に質問をぶつけた。
「本当に天下りを禁止できるとお考えですか」
福田市長は「これは本当に厳しい」と苦笑いを浮かべ、「将来的には確実にしなければいけないと思っています」と市議会さながらの答弁でかわした。
若者の政治への関心を高めるには参加からと、昨年12月に実施されたマニフェスト検証会。高校生が福田市長の政策をただすという企画で川崎青年会議所が主催した。
神奈川県立川崎高校2年の周羽涵(うはん)さん(16)は事前にマニフェストの中身を調べ、「天下りの禁止」という項目に目が留まった。「そんな利権を本当に捨てられるのかと思った」。防災対策についても質問した周さんは「政治って私たちの生活に関わること。チェックするという意味でも、ちゃんと投票に行った方がいいと思った」。
一方、同高校2年の高野さとみさん(17)は「川崎市がやっていることは分かったので市の選挙なら投票に行きたいが、国政はイメージが湧かない」。そして「国政のことが分かるように、学校の授業でもマニフェスト検証会のようなことをやってくれればいいのに」と続けた。
政治への意識を高めるシチズンシップ教育は既に一部の学校で取り組まれている。県立湘南台高校は2010年度から模擬投票や模擬議会を行い、13年度からは各学年で総合の時間に授業として組み込んでいる。
1年生は模擬議会で国会での法案成立のプロセスを体験し、2年生はディベートなどによって公共的課題について解決策を探る力を養う。3年生はそれまでの経験を生かし、自らが興味のある課題に対して情報を集め、分析し、解決策を提示する。3年の堀水真世さん(18)は「社会に出たら自分の考えをきちんと伝え、相手の意見も聞いて関わっていくことが大切。そのための力を少しは付けられたと思う」と話す。
3年間担任を務めた黒崎洋介教諭(28)は「授業で培った力を生かし、ボランティアなど課外活動にも積極的に取り組んできた。人と接する際のバランス感覚が良くなった」と手応えを口にし、それこそがシチズンシップ教育の目標なのだと力説する。「選挙への関心を高めるのは、あくまで通過点。これからの社会を担う自立した社会人を育てることが重要だ」
ただ、堀水さんはまだ迷いがある。「模擬投票で練習したので本番も行きたいと思うけど、先生に頼らずに投票できるかな。無理に行くのも良くないと思うし…」と考え込む。
黒崎教諭が諭すように話し掛けた。「卒業しても、授業で学んだことを土台にして社会と関わりながら選挙も経験していってほしい。そうすれば判断力は付いてくるよ」