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第4次厚木騒音訴訟控訴審判決
安保の代償(下)被害救済 全国が注視

政治・行政 | 神奈川新聞 | 2015年8月2日(日) 12:05

第4次厚木爆音訴訟の控訴審判決後、他の基地訴訟団も加わって開かれた報告集会=7月30日、都内
第4次厚木爆音訴訟の控訴審判決後、他の基地訴訟団も加わって開かれた報告集会=7月30日、都内

 法廷を飛び出し、東京高裁の前で待つ原告の元へ急ぎながら、石渡豊正弁護士(35)は思った。「将来分の(賠償の勝訴を知らせる)旗も用意しておけばよかったな」

 第4次厚木爆音訴訟の控訴審判決は一連の訴訟で初めて、騒音被害に対する判決後の将来分の賠償を認めた。「正直、難しさはあると思っていた」(石渡弁護士)弁護団にとっても、想定以上の判断だった。

 全国では横田(東京都)や嘉手納(沖縄県)、普天間(同)、小松(石川県)などで基地騒音訴訟が係争中だ。厚木で勝ち得た画期的な判断からの影響に期待は大きい。

 第2次新横田訴訟の大野芳一原告団長(75)は、厚木の原告と一緒に高裁で喜びに浸った。「判決後の将来請求まで認められれば、住民が被害の賠償を求めて裁判を繰り返す負担がなくなる」

 厚木では、1986年の第1次訴訟東京高裁判決で「基地の公共性が高ければ騒音の受忍限度も高くなる」として原告側が全面敗訴したが、その後の司法判断は徐々に住民勝訴の色彩を強める流れをたどっている。賠償範囲も広がり、4次訴訟の一審横浜地裁判決は自衛隊機の飛行差し止めにも踏み込んだ。

 だが、騒音被害の大半を占める米軍機の飛行差し止めは一貫して「国の支配が及ばない」として門前払いが続いてきた。

 4次訴訟では「米軍機による滑走路使用は行政処分」との理論を組み立て、その適法性を争う行政訴訟を並行させる手法を試みたが、退けられている。原告側弁護団の福田護弁護士(65)は「地裁、高裁と続けて退けられたのは厳しい」と語る。

 「極東で最も活発」と表現される米空軍嘉手納基地の住民訴訟原告団も、厚木の訴訟を注視してきた。平良真知原告団事務局長(64)は「(嘉手納では)米軍機は夜中の3時も飛ぶ。墜落の危険性もある」。厚木で米軍機の飛行差し止めが認められなかったことを残念がる。

 厚木の原告団は、差し止めを認めなかった敗訴部分について、上告して最高裁の判断を仰ぐ方針だ。行政訴訟で差し止めを求める新手法が最高裁でも退けられれば、司法による被害救済に一つの限界が示されることになる。

 一方、滑走路の沖合移設が厚木からの艦載機移駐の呼び水となった岩国基地(山口県)の周辺住民は、判決に複雑な表情だ。

 岩国訴訟を支援する田村順玄岩国市議(69)は「岩国は厚木と国のはざまにいる」と漏らした。「判決に移駐を出されたのはショック。厚木が静かになるのはいいことだが、岩国市は移駐容認の立場でも正式には同意していない」

 岩国移駐を前提に被害救済を導いた判断が示したのは、個別の紛争を審理する司法のもう一つの限界でもある。「騒音被害の本当の解決につなげたい」-。全国の基地訴訟原告団が思いを共有し、基地周辺の生活被害を重視する傾向も司法判断に強まる中、緻密で抜本的な対策を国が迫られているのは間違いない。

 
 

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