安全保障関連法案は、16日の衆院本会議であっさりと可決された。しかし、抗議の声は収まることはない。本日も記者が現場からレポート。抗議活動を支える人たちを追った。
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午後10時20分
「今日、全国20カ所くらいでデモが行われているみたいです」
午後10時20分、男子大学生からの報告に歓声と拍手がわく。
「まだまだ、これからです」
女子大生は宣言する。
「今週末の3連休で国民は忘れてしまうだろうと言っている政治家がいるみたいですが、忘れませんよ。学生はこれから夏休みでたくさん時間があるんです!」
道ばたで出会った憲法学者の男性も言った。
「手を変え品を変え、面白い企画をどんどん組んでいきましょう」
午後10時10分
マイクを握った女子大生のスピーチが聞こえる。
「ここに来るまで、おまわりさんはとても怖い存在と思っていました。威圧的だと思っていました。でも、今日ここにいるおまわりさんの印象は違いました。見守ってくださっている感じがします。だから、ここに来たとき、ありがとうって言いたかったんです。ありがとうございます。一つだけ、おまわりさんにお願いがあります。どうか、私たちから表現できる自由を奪わないで下さい」
おまわりさん、このスピーチどんな風に聞いていたのかな。
午後9時15分
シュプレヒコールをあげる国会前。道路を挟んで反対側の歩道に来た。歩道までわずか50mだが、規制されていて横断歩道は渡れない。
「通れないんですか」
「すみません、ここは規制中なんです」
「歩道なのに自由に通れないの?」
「すみません、大規模なデモなので交通整理をしているんです」
対峙する市民と警察官。
空気が張り詰める。
見守り隊の女性弁護士が到着した。
「まぁまぁ、みなさん、熱くなり過ぎず。先は長いですから、気を張り詰め過ぎずにやりましょう」
蒸し上がっていた現場に、涼しい風が吹いた。
午後8時
国会正面前に続く約200mの歩道。警視庁の警察官が約1mおきに立つ。歩道と車道の間には鉄製のフェンス。その奥には、約30人ほどの警察官が目を光らせていた。
「異常なまでの警備です。ここまで厳重な警備をデモの現場で見たことはありません」
暗闇の歩道で「弁護士」の腕章をつけた男性弁護士(27)を見つけた。
警察官とデモの参加者の間で衝突が起こらないよう「見守り隊」として参加した。
「何かささいなことで揉み合いになり、警察官をはずみで押してしまっただけでも公務執行妨害の疑いで逮捕されることがある。われわれ弁護士は、その緩衝材の役目として立っている」
見る限り、問題は起きていない。
「でも、細かいところを見ると『デモを抑えつけようとしているのでは』と思うところが多々ある」
例えば、デモ最前線の近くに待機する約30人ほどの警察官。
「彼らは、何か問題が起きたときにすぐ駆け付けられるよう、あえてフリーでいる。でも1mおきに警察官が立っていて、果たしてそこまで見張る必要があるのでしょうか。監視という別の意図を感じます」
少し後ろにひいた場所には、私服警察官の姿もある。よく見ると、その手にはカメラが握られていた。
「弁護士なら誰もが知るところですが、無断撮影は基本的にできない。最高裁の判例でありますが、撮影ができるのは、緊急でその映像を押さえないといけない場合に限られている。しかし、これだけ多くの警察官がいればそんな必要はない。目撃者数人分の供述調書があれば十分です。デモ参加者の顔を撮影し『こんな人間が来ている』と何かの資料にでもするつもりなのでしょうか」
デモへと向かう入り口も、また迂回しなければ通れないようにフェンスが設置されている。
「デモに参加させないでおこうという意図を感じさせる」
憲法が定める表現の自由。
「デモは、それがまさに体現できる場であり、自由が脅かされることがどういうことかを知る場でもあります」
午後7時
「神奈川県建設労連」というのぼり旗に目が止まった。旗の前には、仕事を終えたばかりのような大工さんの姿が。
建設業と安保法案。なにか接点はあるのだろうか。
疑問の答えを、神奈川土建一般労働組合の男性が教えてくれた。
「戦争が始まると、建設や土木に携わるわれわれは徴用される可能性がある。第2次世界大戦下では、塹壕や兵士の宿舎をつくらされた。土木や建設作業の人にとって、安保法案は人ごとではない」
隣にいた大工の男性(60)が口を開く。
「いまの自衛隊法でも、防衛出動時には防衛大臣命令で僕ら建設業者は作業に従事させられることが決められている。下手したら、自衛隊よりも前にどこかに連れて行かれるかもしれない」
神奈川県建設労働組合には約5万5千人が所属しているという。
大工の男性には、自衛隊員の義理の息子がいる。
「長女の旦那なんだけど、2週間前に女の子が生まれた。自衛隊員のお父さん、大工のおじいちゃん、二人していなくなるようなことだけは避けたいよ」
午後6時半
「この先は非常に混んでいます。気を付けてお進みください」
国会前の交差点で交通案内をしている男性がいた。東京都三鷹市の男性(66)。昨日から市民ボランティアとして道案内をしているという。
「これまで、いろんなデモや集会に参加してきたけれど、今まで見たこともない人たちばかりなんだ。ほら、見てみて」
幼い子を連れた母親、背広を着たサラリーマン、ハイヒールの女性。
「みんな、慣れない様子なんだ。でもね、驚いたことに嬉しそうなんだ。悲壮感がない。今までどうしようか迷っていたけれど、勇気を持って来てよかったって思っているのかなぁ」
信号が青に変わったのと同時に、次々と人がデモの中心へと向かって歩いていく。
「街に立つと、教えられることばかりなんだよね」
先週末、男性は新宿駅でのデモに参加した。ある男性に声を掛けられた。車椅子に乗ったその男性は言った。
「僕ら障害者は、戦争が始まったら厄介者になるんだ。戦争の使い物にならない人間だからさ」
はっとした。
「そういう思いをして生きている人がいる。そんな思いをさせていること自体、おかしいんじゃないかなと思ったよ」
「思い出したら泣けてきちゃったよ。歳とると涙腺が緩くなっちゃって」
信号がまた青に変わった。車椅子の男性が渡ってきた。
「今回、車椅子でデモに来る人がすごく多いんだ。戦争になったら、体が不自由な人はもしかしたら居場所を失ってしまうのかもしれない。そう考えたら、新しい種類の怒りがわいてきたよ」
日が暮れた国会前に、また一人、また一人と人が集まってきた。
午後6時
台風の影響で湿気が高く、蒸し蒸ししている。今にも雨が降り出しそうな空。それでも、続々と人が集まってくる。取材で知り合った会社員の女性(36)からFacebookで連絡が入る。
「今から行きます。国会前で会いましょう!」