薄くて軽い「薄膜太陽電池」の普及に向けて県が2年間で総額約10億円を投じるプロジェクトが、予定通り進んでいない。昨年7月に6事業主体を選定したものの、国の固定価格買い取り制度の見直しや建設資材の価格高騰などにより、計画を縮小したり取りやめたりするケースが続出。黒岩祐治知事の肝いり事業が立ち往生する事態に陥りかねず、県は6月から提案事業者の再公募を始めた。
「薄膜電池の用途を見える化することで、一気に広がる」。黒岩知事は昨年7月、県の応募に提案を寄せた11事業主体の中から6事業主体を選んだと発表し、太陽光パネル普及の起爆剤になると期待感を示した。
工場の屋根、マンションのベランダ、オフィスの窓-。6事業主体が打ち出したのは、従来の太陽光パネルでは重さの問題などで設置困難とされた場所に薄膜を新設する計42事業。低価格化に向けた需要喚起もにらみ、県は総額約9億6800万円を補助する計画だった。
ところが、事業決定で加速させるはずの計画に水を差すような事案が、相次いで浮上。最も大きな要因となったのは、昨年末の大手電力会社による再生可能エネルギー受け入れ中断問題への対応策として、政府が固定価格買い取り制度の抜本的見直しに着手したことだ。電力系統への接続制限や売電収入の確保など将来の見通しが厳しくなり、事業者側が設置に及び腰となった。
実際、補助対象に決まった事業のうち、道路遮音壁との一体設置や農業用ハウス上部への取り付けなど14事業が見送られた。現時点で計画通り設置されるのは計28事業に縮小され、補助金の執行額は当初の約3分の1に当たる約3億6300万円にとどまる見通しだ。
黒岩知事は「出だしで思い通りにいかなかったのは特別な要素があったためで、基本的な流れは変わっていない」と強調。「再生可能エネルギーの最大限導入に向けて、薄膜太陽電池の普及拡大は不可欠だという思いは変わっていない」と述べ、再公募を行う考えを示した。
再公募は未執行の予算額5億8千万円を上限に、条件は変えずに新たな事業を募集する。7月30日まで応募を受け付け、9月に結果を公表する予定だ。