
旅客機がひっきりなしに離着陸する羽田空港の対岸。かつて自動車工場だった約40ヘクタールの土地に、いくつもの近代的な研究施設の建設が進んでいる。川崎市川崎区殿町3丁目地区の国際戦略拠点「キングスカイフロント」。市臨海部国際戦略室が「2年ぐらいでものすごい姿が変わる」と言うように、成長産業を軸に進化し続けるエリアだ。
今年だけでも県ライフイノベーションセンター、国立医薬品食品衛生研究所(国立衛生研)、日本アイソトープ協会といった施設の工事が一気に本格化する。同室は「この場所に関心を持つ企業などからの引き合いはすごい。市もその期待に応えないといけない」と取り組みの推進に力を込める。
子育てや教育施策といった「安心のふるさとづくり」と並び、福田市政が大目標に掲げている「力強い産業都市づくり」。その実現に向け、国際戦略拠点への予算配分も目に見える形で重点化している。
4月に運営を始めるライフイノベーション分野の中核研究施設「ナノ医療イノベーションセンター」。東大を中心に産学官が協力し、従来の治療法では不可能だった難治性がんに対する抗がん剤を搭載したナノマシンや、アルツハイマー病の革新的な治療技術の研究、実用化を目指す。
今月中旬には、抗体医薬品の研究開発・支援を手掛けている「カイオム・バイオサイエンス」(東京都渋谷区)が、新たに入居を発表。自らの技術やノウハウを生かした創薬力強化を目指す同社は「多くのバイオクラスターが進出しており、期待は大きい」と進出理由を明かす。
ただ、センターが「安定的な事業運営に至るまでには一定期間を要する」(経済労働局)のが実情で、市は2015年度予算案に運営支援として2億5千万円を計上。運営は企業や研究機関などの入居者、利用者の負担を基本としているため、市議会からは公的支援の必要性や妥当性について疑問の声も聞かれる。
面積の約7割がすでに埋まっている殿町3丁目地区。さらなる価値向上には、ライフイノベーション分野で相乗効果が期待できる企業などの早期進出が鍵となる。「どこでもよければすぐ入居は決まるが、それでは価値が下がる」(市幹部)との声もあり、日本の成長戦略をけん引する国際拠点として存在感を高める要素が求められている。
その中で、ひときわ期待を集めているのが、羽田空港のある東京都大田区側と多摩川対岸の川崎市を結ぶ「羽田連絡道路」だ。県や川崎市の悲願が結実し、昨春から構想が大きく動きだした。市は15年度予算案に道路整備に伴う周辺の環境影響調査などとして約1億5千万円を盛り込んだ。20年東京五輪を見据え、国、県、東京都などと道路の種類や整備手法を協議して早期整備を目指している。
一方、数百億規模のビッグプロジェクトとなる羽田連絡道路を含むキングスカイフロントへの投資は、その在り方が常に問われてきた。ある市議は「経済成長を求めたり、最先端医療を推進したりすること自体は否定しないが、それを市民にどうやって還元していくのか」。
市臨海部国際戦略室は、3~5年で市内産業にすぐに還元、波及効果があるプロジェクトではないとした上で、こう説明する。「日本全体の産業転換の大きな鍵となる場所。あまりローカルでやっていても大きな動きにならない」
【神奈川新聞】
