黒岩祐治知事が19日の県議会本会議で、4月の県知事選に再選出馬を表明した。
900万人の県民が暮らす神奈川の針路をどう取るか。次の4年間の県政運営が県民生活を向上させるよう、前哨戦も含め、政策論争を深める機会にしなければならない。
知事選の最大の焦点は黒岩県政1期目の評価である。既に立候補を表明した政治団体役員の岡本一氏=共産党推薦=は「特区政策は大企業偏重だ」などと批判的だ。県議会各会派は「知事与党」か否かにかかわらず、多角的に現県政を検証し、有権者に判断材料を示すべきだ。
振り返れば、前回は松沢成文前知事の突然の都知事選出馬表明により異例の展開となった。政党の要請を受け、黒岩氏が立候補を決めたのは告示日直前で、県政のかじを握る準備が十分だったとは言い難い。
唯一の数値目標を入れた「4年で200万戸に太陽光パネル設置」の公約は早々に事実上撤回し、大幅な下方修正に追い込まれもした。震災がれきの焼却灰受け入れ問題は持ち前の「スピード感」が裏目に出て、拙速さが地元の反発を招いた。
それでも、ジャーナリスト時代からこだわり続けた医療・健康分野では黒岩色を出してきた。長年の持論だった准看護師の養成停止を決めたほか、国に先んじて不活化ポリオワクチン接種事業にも踏み切った。
急速に進む高齢化に備え、持続可能な神奈川モデルも打ち出した。最先端の医療・健康産業の創出と、「未病を治す」という健康長寿化を融合させた「ヘルスケア・ニューフロンティア」である。進めるために国の大胆な規制緩和を期待し、三つの特区の指定も得た。
ただ、黒岩知事が雄弁に語るビジョンを思えば、個々の事業や施策の現状に拍子抜けの感は否めない。長い目で見るべき取り組みとはいえ、現状の進捗(しんちょく)が心もとないのだ。
国家戦略特区は岩盤規制改革が適用される対象はわずか。国際的医療人材を養成する「メディカル・スクール」は構想の輪郭さえ見えない。「医療革命を起こす」というマイカルテ構想もお薬手帳電子化実験に尻すぼみし、健康経営を普及させるCHO(健康管理最高責任者)構想は庁内ですら職員の参加率は低い。
黒岩知事も2期目を目指す以上、看板政策の現状と課題を自ら検証し、県民に説明する責任がある。
【神奈川新聞】