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【社説】首相発言 自ら憎しみをあおる愚

政治・行政 | 神奈川新聞 | 2015年2月8日(日) 09:53

売り言葉に買い言葉といった趣に慄然(りつぜん)とする。過激派「イスラム国」による人質殺害事件を受けた安倍晋三首相の発言のことである。自民党内の会合で「日本人にはこの先、指一本触れさせない」と語った。

念頭にあったのはジャーナリスト後藤健二さんを殺害し、インターネット上に公開された映像声明であろう。「アベ」と名指しし、「おまえの国民を場所を問わずに殺りくするだろう」と続いていた。

テロリストと同じ土俵に乗り、投げ返した首相の言葉はどう喝的、かつ好戦的と言わざるを得ない。

「罪を償わせる」との発言は米メディアから「平和主義の外交方針を放棄しようとする安倍氏の取り組みの一環」と評された。「テロリストの思いを忖度(そんたく)してそれに気を配る、あるいは屈するようなことがあってはならない」に至っては、身代金交渉に応じることもテロに屈することになってしまうという意味で理性的とはほど遠かった。

言葉は人の内面を表す。前のめりに映る言動からは、いまこそ悲願を遂げる好機と心得、胸の内で叫ぶ快哉(かいさい)が聞こえてこないだろうか。

3日の参院予算委員会で首相が意欲を示したのは憲法9条の改正だった。「国民の生命と財産を守る任務を全うするためだ」と持論を述べたが、人質事件と9条改正を結びつける我田引水は、今回の事態を奇貨としている証しではないのか。

怒りや憎しみ、恐怖によって目を曇らせ、知らず暴力の連鎖に引きずり込む。そこにテロリストの策謀があると知るべきだ。対決の構えを見せるほどに敵としての姿は鮮明になり、ゆがんだ大義は正当化されていく。共鳴した同志によってテロが日本で遂行されれば、イスラム国は支配領域を拡大することになる。

その死に責任があるとも語った首相こそがかみしめるべき言葉がある。ネット上で注目を集めている後藤さんの過去のツイートである。

その一つにはこうある。

〈目を閉じて、じっと我慢。怒ったら、怒鳴ったら、終わり。それは祈りに近い。憎むは人の業にあらず、裁きは神の領域。-そう教えてくれたのはアラブの兄弟たちだった〉

憎悪を示すことはテロに屈しないことと同義ではない。いま、愛する人を思い、いかなる命ももてあそばれ、利用されてはならないと確かめ合うための言葉をこそ語りたい。

【神奈川新聞】

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