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刻む2014<5>
憲法9条がノーベル賞候補に

政治・行政 | 神奈川新聞 | 2014年12月25日(木) 12:14

鷹巣直美さん
鷹巣直美さん

戦争放棄を定めた憲法9条をノーベル平和賞に推す県内発の運動は、4月に初の候補入りを果たしたことで、9条の理念を世界に広く発信した。同時にそれは安倍首相が「戦後レジームからの脱却」を掲げ、集団的自衛権行使に歩みを進める今日、私たち自身が9条の価値をあらためて問われる機会にもなった。来年以降の受賞を期して運動が継続されるなか、発端となった座間市の主婦鷹巣直美さん(38)、実行委員会共同代表の落合正行さん(82)の声にいま一度耳を澄ませたい。

◆運動提唱者鷹巣直美さん 暴力応酬止める責任

私は2人の子どもを育てています。子どもに悲しい思いをさせる戦争をなくすため、世界で一緒に取り組んでほしい。戦争放棄を定めた日本の憲法9条をノーベル平和賞に推すことで、皆に考えてもらえるんじゃないか。それが出発点でした。

今年初めて候補入りし、9条をほんの少し世界に知ってもらえたと思います。でも、まだこれからです。

子どもの受難が広がるのに苦しい思いでいます。最近もパキスタンで武装勢力が学校を襲い、生徒131人が殺害された事件があった。「軍に家族を殺された復讐(ふくしゅう)」という犯行声明もニュースで知りました。

暴力の応酬はどうしたら止められるでしょうか。それを考える責任が世界中の大人にあると思います。

私もですが、皆さんも家庭や職場で誰かと対立すると思います。それでも何とかやっていける。それは日常で暴力を使わないから。話し合うとか、そっとしておくとか。憎しみの壁は結局、話し合いや外交でしか、超えられないのです。暴力でも、軍事力でも憎しみを生むだけです。

私たちは戦争しないと誓った9条に支えられ、その実践を既にしている。70年近く戦争がなかった恩恵を、世界に広めたい。それには9条の理想を磨く努力も必要です。例えば防衛費の予算を、子どもたちが人と話し合う力を高める教育の方に回したらすてきだと思いませんか。

平和賞を受賞したマララ・ユスフザイさんの勇気と行動に尊敬の思いでいっぱいです。でも、まだ10代の少女がなぜ多大な危険を払い、女子教育を求めないといけないのか。その状況をつくったのは大人です。

実行委員会では、紛争や内戦がある地域の政府や在日大使館などに、平和的解決や和解を求めるメールを送る活動も始めました。聞き入れられることはないだろうけど、心の中にひっかかりを感じ、少しでも暴力へのブレーキになれば。人なんてすぐに変わらないし、戦争も終わらない。でも、『人殺しなんてしたくない』『戦争もしたくない』っていう誰にもあるはずの良心を信じたいのです。

◆実行委共同代表落合正行さん 署名に感じる“重み”

ノーベル賞は逃しましたが、とてもうれしいことがありました。今冬、実行委員会宛てに韓国北東部の自治体江原道(カンウォンド)などが主催する「非武装地帯(DMZ)平和賞」をいただいたことです。

DMZがある江原道は軍事境界線で北朝鮮側と分断された地域。軍事的な脅威を身近に感じ続け、平和のありがたみを痛感している人々からの共感とエール。9条の理想をもっと世界に広めて、と背中を押された思いでした。

私が実行委に携わるのは戦争を知る世代ゆえです。少年時代、疎開した山梨県内でも空襲で真っ赤に燃え上がった町や空を目にしました。とても恐ろしく、悲しく、むなしい景色でした。そうした体験を、どんな国のどんな境遇の子どもにもさせたくない。その一点に尽きるのです。

実行委は、全国から送られる署名用紙を数日おきに郵便局に受け取りに行き、集計しています。変化を感じたのは6月ごろでした。与党協議が集団的自衛権の行使容認に傾いていった時期です。署名が急増しました。以前は毎回2500筆前後でしたが、4千、6千と増えていった。

安倍内閣が閣議決定した7月1日の翌朝は1万1282筆。両手に言いしれぬ重みを感じました。9条をなきものにしようとする政府、与党への不信が署名に託された、と思わずにいられなかったからです。

12月現在、海外からの賛同を含め47万5114筆に達しています。電子署名収集サイトも中国、韓国、米国、フランスの4カ国語対応まで広げられました。

9条を取り巻く現実には、自衛隊の海外派遣とか、確かに矛盾もあります。でも69年間、感じられた「平和」にも尊い価値があるはずです。

価値が分からなければ守り、磨き上げることもできません。だから運動は世界に9条を広めると同時に、この国で生きる人々にあらためて9条の価値に気づいてもらうためでもあるのです。

集団的自衛権の行使が具体化する前にこそ、です。

◆担当記者 見つめ続けたい

「国に憲法を無料で配ってもらえないだろうか」。ノーベル平和賞発表の10月10日。相模原市内で実行委員会が設けた会見の最後、鷹巣直美さんが報道陣にそう呼び掛ける場面があった。唐突にも思えた発言だったが、続く説明に合点がいった。

「安倍さんは改憲がしたいんでしょう。だったら今の憲法がいいのか悪いのか、私たち皆がもっと憲法を知らないと」「電話で総務省にお願いしたら『個人で本屋で買って』と。それだと、お金がない人や売り切れで買えない人も出る。だから無料で全員に」

総務省にいきなり電話をかけるお母さんなんて、なかなかいない。憲法9条を同賞に推す発想自体が驚きだったが、憲法の無料配布もなかなか。しかし、一部の記者から起こったのは冷ややかな笑いだった。

自戒を込めて思う。鷹巣さんを取材するようになって1年。まさかここまで広がる運動になるとはと驚く心の底に、「どうせ相手にされるはずがない」といった先入観がなかったか。自分のちっぽけな経験則や価値観で、目の前の誰かの言葉や思いを矮小(わいしょう)化し、見ないよう背を向けてこなかったか。

集団的自衛権の行使容認が閣議決定され、特定秘密保護法が施行された。9条に手を加える動きは現実味を帯びる。平和が当たり前だった時代は過ぎ、戦後日本の姿が揺らぐ。その流れにあらがう声を上げる人たちを、曇りない目で見つめ続けたいと思う。

◇憲法9条をノーベル平和賞に推す運動◇座間市の主婦鷹巣直美さんが2013年1月、平和賞の選考機関ノルウェー・ノーベル委員会(オスロ)に9条への授与を求める電子メールを送り出したのが契機。その後、インターネット上の電子署名収集サイト「チェンジ・オルグ」で運動を展開。その後に実行委員会を組織した。賞は個人・団体に贈られるため、憲法の条文そのものは対象にならないことが分かり、推薦文を「日本国憲法、特に第9条を今まで保持している日本国民にノーベル平和賞を授与してください」と変更。4月9日に同委員会から推薦を受理した通知が届き、14年の278候補中の一つにノミネートされた。

【神奈川新聞】


落合正行さん
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