
◇低収入 老後に不安
横浜市内の特別養護老人ホーム。平均年齢85歳の入居者100人が暮らす。うち半数は重い認知症で徘徊(はいかい)などの問題行動があり、目が離せない。
5年前からここで働く介護福祉士の女性(50)は、不眠に悩まされている。午後5時から翌朝10時まで、ほぼ仮眠なしで働く夜勤が月5回ほどある。「週に2回夜勤があると、もうぐったり」。日勤も入浴や排せつの介助など体力仕事が多く、疲れはたまる一方で、ひとたび風邪をひくとなかなか治らない。
老人ホームの近くにアパートを借りて1人で暮らす。たまの楽しみだった友人との外食もほとんどなくなり、生活費を切り詰めて暮らすが、スーパーに行っても物価上昇を痛感する日々。食費に加え、家賃や光熱費などを払ったら、手元には毎月ほとんどお金が残らない。「夜勤をこれだけこなしても、将来の蓄えは全くできない」。体力的にも厳しい介護の仕事をいつまで続けることができるのか、独身で迎える老後に不安は募るばかりだ。
厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、2013年の福祉施設介護員の平均賃金は月約22万円で、全産業平均を約10万円下回る。処遇改善加算などで多少の給与改善はあったが、介護職の多くが手取りは20万円に満たないのが実情だ。女性も「生活が楽になった実感はない」と言う。
15年10月に予定されていた消費税10%への引き上げでは、増税分も含めた年2・8兆円を社会保障の充実に投じ、介護職員や保育士の処遇改善などに充てる予定だった。
しかし再増税の延期で、処遇改善の財源は現時点では不透明だ。
老人ホームの男性施設長(60)は雇用状況が好転してから、介護職の採用はますます難しくなったと感じている。産業の多い都市部では、あえて重労働の介護の仕事を選ぶ人は少なくなっているという。
「せめて介護士が1人で家庭を支えられるよう、手取りで月25万円以上の待遇に改善されなければ、ほかの職種と対等に人を集めることは難しい。介護の仕事はこれからますます必要になる時代なのに、人材が定着せず育てられない」。嘆き節は止まらない。
15年度に迎える介護報酬改定も心配の種だ。毎年、改定期の前にはさまざまな議論が交わされ、マスコミでも取り上げられるのに、今回は選挙にかき消されている気がする。「『アベノミクス選挙』と騒いでいるうちに、世間で議論されないままに介護報酬が引き下げられてしまうのではないか」
選挙戦では介護の話題はあまり耳にしない。「マニフェストを見ても、本当に実行できるのか信用できない。きちんと演説を聞いて、信用できそうな人に投票する」
【神奈川新聞】