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【社説】クマラスワミ報告 本質から目をそらすな

政治・行政 | 神奈川新聞 | 2014年10月25日(土) 09:44

一つの小さなほころびを言い募りながら、全体を否定する。しかも、本質的な問題点からは目をそらす。旧日本軍の従軍慰安婦問題をめぐり、揚げ足を取るような政府の姿勢が顕著になっている。

従軍慰安婦を「性奴隷」と表現した1996年の国連報告書について、日本政府は「事実に反する点がある」として、まとめを担当したクマラスワミ元報告者に内容の一部撤回を求めた。

理由は、報告書には旧日本軍が韓国で慰安婦を強制連行したとする故吉田清治氏の証言が引用されているからだとする。

吉田氏証言は虚偽だったとし、朝日新聞は関連記事を取り消した。だが報告書を読む限り、政府の主張は筋違いであるように感じられる。

報告書は吉田氏の「奴隷狩りに加わっていた」との発言に簡単に触れたが、その信ぴょう性を問う学識者の発言に、より字数を割いている。クマラスワミ氏は報告をまとめる際に、平壌、ソウル、東京で80人近い人物に話を聞いている。事実認定において、吉田氏の証言には重きを置いていないからである。

たとえ吉田氏の部分を削除しても報告の内容は変わらないであろうし、まったく別の場所から集まった女性らが徴用について共通して軍や政府の関与を示した、という事実が消せるはずもない。そもそも国際社会が問題にしているのは、政府が主張しているような「『狭義』の強制性の有無」ではない。

報告書は、はっきりと「軍隊によって、また軍隊のために性的サービスを強要された女性たちの事例は軍性奴隷制の実施であった」と定義している。そうした国際的に常識となっている観点からの人権侵害への態度が求められているのである。

報告書は、日本は1907年にハーグ条約に加盟しており、従軍慰安婦問題について国際人道法違反の責任を問える、としている。だが政府は指摘された最も重要な点に目をつぶり、論点をずらすことで責任がないかのような印象を与えようと躍起になっているように見える。

そうした態度は、過去を直視できない未熟な国、との印象を国際社会に広げるだろう。それこそ「日本の威信」を傷つける行為ではないか。政府は、内向きの理屈から脱出し、いま一度、真摯(しんし)に報告書と向き合うべきである。

【神奈川新聞】

 
 

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