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障害者雇用で国際セミナー(上) 立ち遅れ 際立つ日本

政治・行政 | 神奈川新聞 | 2014年4月28日(月) 11:40

各国の障害者雇用の現状を報告したパネリスト。右から斎藤さん、セバスチャンさん、オショーネシィさん、マッケイさん=参院議員会館
各国の障害者雇用の現状を報告したパネリスト。右から斎藤さん、セバスチャンさん、オショーネシィさん、マッケイさん=参院議員会館

日本政府が今年1月に障害者権利条約を批准したことで障害者福祉は転換点を迎えた。焦点の一つが障害者の就労。条約は労働・雇用の差別を禁じており、労働法が適用されず低賃金のままに置かれている「福祉的就労」の改革が喫緊の課題となっている。オーストラリア、英国、米国、日本の障害者雇用事業者を招いた国際セミナーの報告から各国の最新動向を紹介し、日本の課題を検証する。

◆オーストラリア 「革命」を国民支持

セミナーで注目を集めたのがオーストラリアで2013年に導入が始まった国家障害保険制度だ。有権者1人当たり年間約3万2千円の新たな税負担で、障害者サービス予算を約5400億円から2・5倍の約1兆3500億円へ増額。「オーストラリアの障害者政策に革命を起こした」と評される。日本でも社会保障の財源確保を目的に消費増税が行われたが、障害サービス分野が隅に追いやられているのとは対照的だ。

障害者を雇用する事業者団体ワーカビリティー・インターナショナル(WI)理事のジェイソン・マッケイさんは、新制度を支えるのは「障害のある人は誰でも、どこに住んでいようと、人生を享受できるように支援を受ける権利があるという信念だ」と語る。超党派で推進され、世論調査では国民の78%の支持を得ているという。

新制度創設運動に大きな役割を果たしたWI会長のパトリック・メアさんによると「障害者がより多く労働に参入することが障害者や地域にとって利益になると訴えた結果、国も経済的観点から検討した」。その結果、「新制度による中重度障害者の雇用創出は国内総生産(GDP)を引き上げ、医療費など政府支出を大きく減らす」との報告が出され、大きな後押しになったという。

メアさんは、国民の理解を得るには「モラルに訴える方法に加え、経済成長や生産性を重視したキャンペーンを行うべきだ」と強調した。

◆英国 予算減り現場混乱

オーストラリアとは正反対の意味で「革命のようなことが起きている」のが英国だ。障害者の雇用支援に取り組むNPOのロイ・オショーネシィさんは「英国の福祉は世界の模範だったが、予算不足のため福祉支出の大幅削減が行われている」と報告した。

日本と比べればはるかに高水準の福祉が行われているとはいえ、福祉現場は大きな混乱に見舞われているという。その象徴が、障害者が働く福祉工場54カ所を運営していたレンプロイ公社の解体。「補助金は巨額に上り、持続可能でないとされた。一般就労への支援に重点を移すことになり、12年には33工場が閉鎖され、1500人以上が職を失った」という。残りの工場も13年中に民間へ売却されるなどした。

「突然失業した障害者は自分の価値が失われたように感じた。重度障害者はどうしたら良いか分からない状態だ」とオショーネシィさん。「予算が豊富な時代は二度と訪れない。障害者が一般市場で雇用を得られるようにしたいが、企業が営利目的だけで運営されれば重度障害者にドアを閉ざすことになる」と懸念を示す。

「福祉から就労へ」を掲げ、新給付制度ユニバーサル・クレジットの導入などを行った英国の福祉改革。政府は、制度の簡素化で就労を促進するとしている。しかし、特に障害者に対し大きな負担を強いているとの批判が噴出し、議会も政府に対し影響を調査するよう要求しているという。

◆米国 一般就労は増えず

米国では障害による差別を禁じた障害者法(ADA法、1990年制定)の下、障害者の一般就労が進められてきた。ただ、重度精神障害者の娘を持つリック・セバスチャンさんは「一般就労は減ってきている」との現状を指摘した。

米国の特徴は、従業員に占める障害者の割合を定める法定雇用率がない一方、連邦政府が障害者団体に仕事を優先発注するプログラム「アビリティ・ワン」や、志のある企業などが積極的な取り組みをしている点にある。セバスチャンさんが経営する非営利企業は「従業員約600人の約70%が障害者」という。

一般就労が増えない原因をセバスチャンさんは「仕事を得るまでの支援には予算が使われるが、就労後のサポートには使われていない」と制度的問題を指摘する。一方で法定雇用率については「強制は好ましくない。娘も義務で採用してほしくない」。結果的に一般就労は労働障害が軽度な“エリート”に限られている可能性が高い。

そうした中、雇用の下支え効果を持っているのが障害者の最低賃金を減額できる特例だ。だが、これには「差別」との批判も根強く、障害者権利団体は一部の企業に対し「障害者を搾取している」と批判。「最低賃金アップは企業に負荷がかかる。論争が続いている」とセバスチャンさん。

アビリティ・ワンでは、多額の予算を持つ米軍の役割が大きく、オバマ政権下の軍事費削減も雇用に影響を与えているという。

◆日本 貧困状態が固定化

条約批准であらためて在り方が問われたのが日本の「福祉的就労」だ。障害者向け作業所の連絡会「きょうされん」の12年調査では、労働が行われているのに福祉サービスとみなされ、最低賃金を含む労働法が適用されていない「就労移行支援」の利用者は約2万6千人、「就労継続支援B型」は約16万6千人。平均工賃月額(厚生労働省12年度調査)はそれぞれ約2万1千円と約1万4千円にすぎない。

きょうされん副理事長の斎藤なを子さんは国際労働機関(ILO)や社会権規約に関する国連委員会から、福祉的就労への労働法適用を求められてきたことを指摘。「抜本的改革がなされてこなかった。障害年金と合わせても市民として生活できる収入ではない」と批判した。

さらに「障害者の約56%が年収100万円以下。大半が貧困ライン(112万円)以下という状況。障害者のほとんどが家族と暮らし養われている」という実態を報告。障害者雇用の法定雇用率は独仏などが5、6%前後なのに対し日本は2%にすぎず、実際の雇用率はさらに低いこと、一般就労への移行率が極めて低く福祉的就労が固定化していることを挙げ、「限度を超える格差が固定化している。環境整備が課題。家族に頼らず自立して生活できることが必要だ」と訴えた。

問題の根底にあるのは「一般就労と福祉的就労の二元制度」とし、雇用と福祉を融合させる政策が不可欠だとした。

■障害のある人の労働・雇用国際セミナー 障害者に労働・雇用サービスを提供する世界最大の事業者団体ワーカビリティ・インターナショナル(WI)のメンバーを招き、4月8日に都内で開催された=写真。主催はワーカビリティ・インターナショナル・ジャパン(WIJ)と日本障害者協議会。WIには約40カ国約130組織が加盟し、そこで働く障害者は300万人以上。日本支部は全国社会就労センター協議会、きょうされんなどで組織している。

■障害者権利条約 2006年に国連総会で採択された障害者に関する初めての国際条約。障害に基づくあらゆる差別を禁止し、障害者の社会参加を促すために必要な措置を取るよう締約国に求めた。27条は「障害者が他の者との平等を基礎として労働についての権利を有することを認める。雇用に係わる全ての事項に関し、障害に基づく差別を禁止する」とした。日本は国内法が条約の求める水準以下のため批准が遅れ、障害者差別解消法が成立したことで13年12月に国会で承認され、14年1月の批准に至った。

【神奈川新聞】

 
 

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