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国家戦略の現場 対論(上)元内閣官房参与・五十嵐敬喜さん 制度設計の転換を

政治・行政 | 神奈川新聞 | 2014年4月24日(木) 12:00

五十嵐敬喜さん
五十嵐敬喜さん

安倍政権が成長戦略の柱に掲げる国家戦略特区。神奈川を含めた「東京圏」をその一つに指定、2020年の東京五輪開催も追い風に新たな社会資本整備が始まりつつある。動きだした特区を切り口に、あるべき社会像を2人の識者に論じてもらった。まずは元法政大教授で内閣官房参与を務めた五十嵐敬喜さん。政権が進める成長・拡大路線に「過疎化が進行している地域は東京への一極集中でより疲弊していくだろう」と疑問を投げ掛ける。

国家戦略が取り組むべきテーマは一過性の成長ではなく、時代の変化を踏まえた新たな制度の設計だと考える。

「五輪を見越し、特区に高層ビルやホテルを建設する。一時的に海外から観光客は来るだろうが、五輪開催により、どれだけの外国人が日本に永住するだろうか。五輪という一過性のイベントが終われば、利用されない巨大な施設が残るだけではないか」

安倍政権の戦略に旧態依然の成長・拡大路線をみている。

都市の膨張を前提とした制度設計から地域共生を前提としたものへの刷新を-。

それが持論だ。

■もう一つの特区構想

住民主導による都市計画のあるべき姿を追求し、全国の自治体のまちづくりで住民運動を支えてきた。例えば1993年、リゾートマンション計画をきっかけに、乱開発を防ぐための「美の基準」を提示した真鶴町のまちづくり条例。その制定を後押しした弁護士としても知られる。

民主党政権時代、内閣官房参与に就任。少子高齢化、人口減少を見据え、人口増と経済成長を前提にした制度のパラダイムシフト(規範、価値観の転換)に向けた検討に着手した。直後に東日本大震災、東京電力福島第1原発事故が発生。新たなパラダイム構築の必要性をより強く感じるようになった。

東日本大震災復興構想会議の検討委員として、ある「特区構想」を描いていた。被災地で土地を共同使用し、市民主体で地域コミュニティーを再構築する「現代総有論」だ。

「現代総有とは漁業権や温泉権といった古典的な入会権とは異なり、共同体のみんなで一定地域の土地、海面、森林、都市などの地域資源を活用し、その恩恵、利益を地域全員、全体に還元していく方法。個別に土地を利用するのではなく、全員で共同利用する概念だ」

絶対的な個人所有にとらわれない市民主体の新たな土地活用法の創設、国や自治体が行う大型公共事業に代わり、市民自ら手掛ける市民事業への転換。だが、復興構想会議で提案すると、関係省庁はすぐに抵抗を示した。「個人所有権は憲法で保障された権利だ」。その後、政権の座は自民党の元へと戻った。

そして震災から3年以上が経過したいま、なお26万7千人が避難生活を余儀なくされ、被災地と原発周辺では浸水地域、汚染地域のそれぞれの線引きが人々の暮らしを分断し続ける。

「『絆』とは正反対の現象が起きている。東北の被災地は少子高齢社会に入った日本を先取りしている地域。必要なのは、被災地の問題を解決するための国家戦略であり、それは少子高齢社会の制度設計にもつながるはずだ」

■総有こそが孤立防ぐ

戦後日本の高度成長を象徴した「土地神話」。地価は際限なく上昇し、サラリーマンにとってマイホームを持つことは人生の目標だった。

では神話崩壊の後、何が起きたか。地方の農村では耕作放棄地が広がり、都市の中ですらエリアによっては空き地や空室が目立つようになっている。

「所有権が放棄され始めている。近代の価値観を象徴する絶対的個人所有にのみとらわれていては、災害復興をはじめ、日本が抱えるさまざまな問題は解決されないのではないか。地方の限界集落化だけではない。少子化に超高齢化、無縁社会と、都市部でも人々はますます互いに協力しないと生きてはいけない時代になる」

総有の土地で市民が主体となり産業を興し復興や地域再生につなげる。地場産の商品の加工、販売、商店街の運営によって地域活性化を図り、高齢者を対象にした介護施設の開設など地域の課題に対応することも可能にする。性別、年齢にかかわらず住民が共に働き、収益を共有し、社会還元を図りながら、地域社会を構築し、次世代へ継承していく-。

そうした構想の実現を阻む壁となるのが都市計画法に基づく、住居、商業、工業といった用途地域での「混在の規制」だ。

「多様な機能が混在してこそコミュニティーとしての意味がある。この規制を取り払い特区で先行して実施して、全国に広げるべきではないか」。巨大防潮堤の建設や高台移転など、国や自治体が推し進める復興とは異なる、もう一つの選択肢だ。

10年間で総額200兆円規模ともいわれる国土強靱(きょうじん)化計画にも特区と同様の旧弊を感じる。災害対策、老朽インフラ修復の必要性は重々承知だが、まず投資ありきで、個々の事業で整備されるものが中長期的にも必要なインフラなのかどうかの議論が広がらない状況を懸念する。

この春、20年にわたり教壇に立った法政大法学部を退職した。巨大与党の下で一度決まった計画や事業が、野党の抑止力のないまま進められていく時代状況に歯がゆさと危機感を抱く。

「かつては公害反対運動のように市民が反対の声を上げ、環境の保全などを勝ち取った。最近は疑問を感じてもなかなか声を上げない傾向がある。ただし、それはあくまで沈黙であり、積極的な賛成ではないはずだ。まずは自助で改革する方法にならないと、パラダイムシフトは起きない」

いがらし・たかよし 日本景観学会会長。1944年、山形県生まれ。早稲田大法学部卒業後、弁護士に。95年、法政大教授(公共事業論、都市政策)。2011年3~8月、内閣官房参与、東日本大震災復興構想会議検討委員。真鶴町まちづくり審議会委員、会長を歴任。

【神奈川新聞】

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