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集団的自衛権を考える(3)「積極的平和主義」って? 安倍首相が提唱

政治・行政 | 神奈川新聞 | 2014年1月30日(木) 10:10

安倍晋三首相は24日の施政方針演説で「積極的平和主義」について1章を割き、その意義を強調した。集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈変更に意欲を示し、自衛隊の海外展開を念頭に世界の平和と安定に貢献するとうたう。「安倍カラー」に彩られた新たな理念はいかなるもので、どんなメッセージを発しているのか。

「歴代の首相がこの言葉を使うことはなかった。安倍首相は前向きに取り組んでくれている」

そう評価するのは政策シンクタンク日本国際フォーラムの伊藤憲一理事長だ。

安倍首相も参与で名を連ねる同フォーラムが「積極的平和主義と日米同盟のあり方」と題した提言を発表したのは2009年。冒頭で「『自国だけが平和であればよい』という『一国平和主義』も、『どこの国にも依存したくない』という『一国防衛主義』も、ともに日本の取るべき道でない」と指摘し、積極的平和主義によって「初めて主体性をもって日米同盟に対処することが可能になる」としている。

具体的には、非核三原則などの防衛政策の基本の再検討を促し、集団的自衛権の行使容認、武器輸出を禁じた三原則の根本的な見直しを提唱。国家安全保障会議(日本版NSC)や特定秘密保護法を先取りするように国の情報収集・分析体制の整備や機密保全体制の不備の改善も盛り込まれており、安倍政権の安全保障戦略の方向性に重なっている。

■「先取り」の意味

「学者の間で使われていた『積極的平和』と、安倍さんが言う『積極的平和主義』は全く別の言葉だ」。平和学が専門の坪井主税・札幌学院大名誉教授はそう指摘する。

積極的平和は1942年、米国の法学者クインシー・ライトが消極的平和とセットで唱えたのが最初とされる。その後、ノルウェーの平和学者ヨハン・ガルトゥングは消極的平和を「戦争のない状態」、積極的平和を戦争がないだけではなく「貧困、差別など社会的構造から発生する暴力がない状態」と定義した。

坪井名誉教授はその英訳に注目する。ガルトゥングの積極的平和は「positive peace」。一方、安倍首相が昨年9月に米の保守系シンクタンクや国連で行った演説の英訳は「Proactive Contributor to Peace」。直訳すれば「平和への積極的な貢献者」となる。

これは、前述のフォーラム提言の英訳で用いられた「positive pacifism」とも異なる。坪井名誉教授によると、「pacifism」は平和主義や兵役忌避を表すほかに「弱虫」の隠語でもあるといい、「保守系の米国人を前に『pacifism』と言えば、『積極的に戦争を拒否するのか』とみなされかねない。だから、違う単語を使ったのではないか」と推測する。

ただし、「proactive」は「積極的」のほかに「先取りする」という意味があり、米軍がテロを防ぐための作戦名などでこの言葉を使ってきたと、坪井名誉教授は説明する。「日本に当てはめれば、攻撃される前に自衛隊を他国へ派遣し、米軍支援のために軍事力を使うということになる。米国人には(先制攻撃として)集団的自衛権を行使する意志として伝わったはずだ」

■付加された思惑

伊藤理事長は、中国の台頭など東アジア情勢の変化を念頭に「米国に守ってもらい、自分たちは憲法9条の『何もしない』という平和主義で自己満足している時代は終わった」と訴える。

一方、坪井名誉教授は積極的平和主義という用語に付加された世論誘導の思惑を読み取る。「日本人にとって『平和主義』といえば、戦力の不保持をうたった憲法9条で、それは広く受け入れられてきた概念だ。そこに『積極的』が付け加えられれば、より響きがいい」

平和運動に取り組むNPO法人「ピースデポ」(横浜市港北区)特別顧問の梅林宏道さんも「憲法9条の平和主義と『積極的平和主義』は全然違う」。

昨年12月に閣議決定された国家安全保障戦略で、「国際協調主義に基づく積極的平和主義の観点から」自衛隊の装備品の活用や供与によって平和貢献するとされていることを例に「つまり武器輸出三原則を見直すということ。『平和主義』という言葉を使って、あたかも『これまでと何も変わらない。心配するな』と国民をごまかそうとしている」。

東京外国語大大学院の伊勢崎賢治教授は「積極的平和を(ガルトゥングが提唱した)本来の意味で捉えていれば、国際貢献も憲法9条を生かすやり方となり、世界からも評価されるだろう」と話す。

国連や政府の要請を受けて携わった紛争処理や武装解除を中東やアフリカで成功させた経験を踏まえ、「日本が先進国で唯一戦争をしていない国と認識されているからこそできた面もある。戦後日本が築き上げた『ブランド力』だ。それが一つの政権によって失われる損失の大きさをよく考えた方がいい」。

精神科医の香山リカさんは「積極的」という言葉を用いる安倍首相に「『動く』ということ自体への強迫観念が透ける」と指摘する。「平和や安全、正義を求めることは当然。そのためには、ときには何かを守ったり、変えないことも必要なはず。でも安倍首相は集団的自衛権の行使や秘密保護法の強行採決など、行動することでしか実現できないと思っているように映る。手段が目的になるという倒錯が起きている」

■□■施政方針演説での積極的平和主義についての要旨

フィリピンの台風被害で1200人規模の自衛隊員が緊急支援をした。アデン湾でも海賊対処行動にあたる自衛隊、海上保安庁は世界から高い評価を受けている。

日本は戦後間もないころから世界に支援の手を差し伸べてきた。医療・保健分野などで生活水準の向上にも貢献し、女性の活躍をはじめ人間の安全保障への取り組みを進めている。

シリアでは化学兵器の廃棄に協力し、イランの核問題では平和的解決に向け独自に働きかけている。

こうした活動の全てが世界の平和と安定に貢献する。これが積極的平和主義。わが国初の国家安全保障戦略を貫く基本思想だ。その司令塔が国家安全保障会議だ。戦後68年間守り続けてきたわが国の平和国家としての歩みは今後とも変わらない。

集団的自衛権や集団安全保障については「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」の報告を踏まえ、対応を検討していく。

日・ASEAN(東南アジア諸国連合)特別首脳会議では、多くの国々から積極的平和主義について支持を得た。ASEANは繁栄のパートナーであるとともに、平和と安定のパートナーだ。

中国が一方的に「防空識別区」を設定し、尖閣諸島周辺では領海侵入が繰り返されている。力による現状変更の試みは決して受け入れられない。引き続き毅然かつ冷静に対応していく。

自由な海や空がなければ人々が行き交い、活発な貿易は期待できない。自由や民主主義、人権、法の支配の原則こそが繁栄をもたらす基盤だ。日本と世界が成長していくために、こうした基本的な価値を共有する国々と連携を深めていく。

その基軸が日米同盟だ。国際協調主義に基づく積極的平和主義の下、米国と手を携え、世界の平和と安定のためにより一層積極的な役割を果たしていく。

【神奈川新聞】

 
 

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