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集団的自衛権を考える(2)「国家安全保障基本法案」の問題点とは? 東海大法科大学院・永山茂樹教授

政治・行政 | 神奈川新聞 | 2014年1月24日(金) 09:52

永山茂樹さん
永山茂樹さん

◇政権が目指す「本丸」

安倍政権が目指す集団的自衛権の行使容認。実際の行使に踏み切る際の裏付けとなる「国家安全保障基本法案」をご存じだろうか。野党時代の自民党が2012年7月に発表したもので、安全保障分野の基本的な政策や方針を定めている。最大のポイントは集団的自衛権の行使を前提にしているところにある。「現在の安倍政権の安全保障政策が凝縮されている」と指摘する憲法学者の永山茂樹さんに、法案が内包する問題点を聞いた。

■安保政策先取り

法案は、安全保障体制の見直しを掲げてまとめられた。「目的」に始まり、「国及び地方公共団体の責務」「国民の責務」「国際の平和と安定の確保」「武器の輸出入等」など12条から成る。

永山さんが強調するのは、法案が安倍政権の推し進める安全保障政策見直しを先取りした内容になっている点だ。

最たるものが第10条「国際連合憲章に定められた自衛権の行使」だ。

自衛権行使のケースを「我が国、あるいは我が国と密接な関係にある他国に対する、外部からの武力攻撃が発生した事態であること」と定める。

これは、集団的自衛権の発動を意味する。

憲法で禁じられている集団的自衛権の行使容認に意欲を見せる安倍政権は、24日召集の通常国会の会期中に従来の憲法解釈を変更する方向で検討を続けている。

■曖昧さへの懸念

第11条では、集団的自衛権を行使して軍事行動に参加する際の留意点についても規定している。

「当該安全保障措置等の目的が我が国の防衛、外交、経済その他の諸政策と合致すること」などとしているが、永山さんは、その前段で「我が国が国際連合憲章上定められ、又は国際連合安全保障理事会で決議された等の、各種の安全保障措置等に参加する場合」としている一文に着眼する。

永山さんは「『各種』や『等』の語句を用い、参加する軍事行動の範囲を曖昧にしている。つまり国連安保理で決議されたものに限定していない」と指摘。米国を主体に英国、オーストラリアなどが有志連合をつくり、国連安保理決議を抜きに開戦したイラク戦争を例に「こうした有志連合に加わる可能性を示すものだ」と警鐘を鳴らす。

■重なる教育改革

安全保障と並んで安倍政権が重視する教育改革と重なって映る部分もある。

第3条2項では「国は、教育、科学技術、建設、運輸、通信その他内政の各分野において、安全保障上必要な配慮を払わなければならない」とする。

「安倍政権は道徳教育の教科化に積極的だが、軍事活動への参加を当然と思う子どもを育てようとしていると考えることもできる」

第4条「国民の責務」はこう続く。「国民は、国の安全保障施策に協力し、我が国の安全保障の確保に寄与し、もって平和で安定した国際社会の実現に努めるものとする」

永山さんは続ける。「教育によって安全保障政策に自発的に関与する国民づくりが、この法案には明確に書かれている。自由を我慢し、財産を制限され、命を差し出すことを求められる。それこそ本当に戦前に戻ってしまう」

■埋められた外堀

集団的自衛権の行使容認をはじめ安全保障政策を大転換させた上で、それを支えるこの法案を成立させることこそが政権が目指す「本丸」だと永山さんはみる。そして「法案の国会提出の時期は不明だが、外堀はすでに埋められてきている」。

3条3項では安全保障上必要な秘密を保護するための法制措置が、6条1項では安全保障基本計画の策定が求められている。

既に特定秘密保護法は成立し、基本計画案を作成する国家安全保障会議(日本版NSC)は動きだした。

「既成事実を積み重ね、現状と変わらないとアピールすれば、この法案が国民に与える衝撃度は弱まる」

永山さんは、国家安全保障基本法が成立すれば事実上の改憲になるとして、その手法に通底する問題点を見る。「安倍首相は正面から論じることなく、憲法解釈の変更によって集団的自衛権の行使容認に踏み切ろうとしている。やはり外堀を埋めることで成立を目指すのなら、ここでも憲法が無視されることになる」

◇「同盟強化」は本当か

同盟国が攻撃された際に協力して反撃するというのが集団的自衛権であると政府は説明してきた。その同盟国として一般に思い浮かぶのは米国でしょう。

考えなければいけないのは、同盟関係が広がれば自衛権を行使する対象も増えるということ。多国間の紛争に加わる恐れがあるということです。

困っている国が助け合うイメージも強いかもしれない。でも、例えばベトナム戦争で米国が北ベトナムを攻撃する口実として主張したのが南ベトナムとの集団的自衛権でした。

第2次世界大戦以降、集団的自衛権を理由にした軍事行動の大半は米国と旧ソ連が起こしたものです。大国が小国に軍事介入する、つまり「弱い者いじめ」の根拠にされてきたのです。日本も行使を容認すれば、米国との同盟関係を理由に弱い者いじめに加担することになるかもしれません。

「尖閣諸島」や「北朝鮮」が思い浮かび「集団的自衛権を持てば安全になるのでは」と考える人もいるかもしれません。

しかし日本は今、オーストラリアや東南アジア諸国とも協力関係を強めており、思いも寄らない「お友達付き合い」が求められないとも限りません。集団的自衛権が実際にどう使われることになるのか、よく考えることが大事です。(談)

●ながやま・しげき 1960年、横須賀市生まれ。東海大法科大学院教授。専門は憲法学。共著に「平和と憲法の現在-軍事によらない平和の探究」。自身のブログ「毎日 憲法」で政治問題などにコメントしている。

◆集団的自衛権

密接な関係にある国が攻撃された場合、自国への攻撃とみなして反撃する権利。国連憲章51条は自国への侵害を排除する個別的自衛権とともに、主権国の「固有の権利」と規定している。日本政府は「国際法上、集団的自衛権を有している」としながら、憲法9条が戦争放棄、戦力不保持を明記しているため、行使することは「国を防衛するための必要最小限度の範囲を超える」と解釈し、禁じている。安倍首相はこの解釈の変更により、行使の容認に意欲を見せている。

【神奈川新聞】

 
 

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