「多少叱責(しっせき)も頂戴したような気もしましたが、大変な激励を頂きました」
1月4日、横浜港運協会の賀詞交換会。国会議員や経済関係者ら約650人の視線が注がれる中、あいさつに立った横浜市の林文子市長が切り出した。直前には、藤木幸夫会長がカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の候補地とされる山下ふ頭について「結論はたった一つ、あそこはばくち場ではない」と断言していた。
IRの運営基準を定める実施法案の通常国会提出を控え、市と港の中心人物が相まみえた一幕。5日後の定例会見でその話題を向けられた林市長は、IRに期待する地元経済界の声も引き合いに「まさにいろいろなご意見があるのだと受け止めています」とかわした。
2018年度当初予算案に計上したIR調査費は前年と同額の1千万円。だが、同時に示した次期中期計画の基本的方向からは、現計画にはあった「IR」の文字が消えていた。
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市は14年度からIRの調査を始め、導入した際の税収増は年61億円、経済効果は4100億円と試算。桁違いの投資が見込まれる一方で、ギャンブル依存症や治安への影響を懸念する市民らの声は根強い。有力候補地と見なされている自治体トップの発言は常に注目を集めてきた。
16年12月のIR整備推進法成立直後は「市にとって有効な手法」と前向きな姿勢を示したが、依存症の問題がクローズアップされると翌17年1月には「積極的に踏み込むことは考えられない」とトーンダウン。昨夏の市長選でIR反対を掲げる対抗馬2人を下したが、3期目に入ってなお「白紙」という説明に変化はない。
その“真意”を巡り、市議からはさまざまな推測が飛び交う。推進派は「明らかに争点隠しだった市長選と今では、同じ『白紙』でも印象が違う。ハレーションは間違いないし、少し後退しているのではないか」と表情を曇らせる。反対派からは「(21年8月までの)任期中には判断しないのでは。得てしてこういう計画は遅れるもの」との声も。ある市議は昨秋の衆院解散で実施法案の審議が棚上げになった経緯も念頭に理解を示した。「IRの中身が見えない中で前提の違う議論をしても仕方がない」
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その実施法案の国会提出に向け、「日本型IR」の議論はいよいよ熱を帯び始めた。政府は入場料や回数制限などの規制案を提示。IRを推進する超党派の議員連盟が14日に開いた総会では、大阪府や北海道など誘致に意欲を示す首長がトップセールスを繰り広げた。
横浜は16年の総会に副市長が出席したが、今回は局長ら職員4人が傍聴するにとどめた。市幹部は「各自治体の決意表明のような場。常識的に考えて、白紙の立場で同列に並べない」とするが、県内の議連メンバーからは「せっかくの機会なのに、横浜がアピールしなかったのは残念」との声が漏れた。
早くも盛り上がる“誘致合戦”を横目に、微妙な距離を取り続ける横浜。市がIR導入の是非を表明するのはIR実施法と依存症対策法の成立後とみられており、前出の推進派市議は「極めて高度な政治判断になる」と話す。
自治体が正式に名乗りを上げるプロセスや日程はまだ不透明だが、有識者会議の報告は申請の際に議会の議決を得ることを盛り込んでいる。来春には統一地方選が控えており、世論の風向きをにらみながら賛否が交錯しそうだ。反対派の市議は息巻く。「間違いなく市議選の争点になる」
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林市長にとって3期目最初の編成となる市の2018年度予算。焦点と課題を探った。