
「税収も伸びているのに、なぜ財政が厳しいのかと市民の皆さんも感じると思う。ぜいたくはしていないのに、私たちも何だこれは、と思う」。2018年度川崎市当初予算案の発表会見で、福田紀彦市長は不満げな表情を浮かべ、こう続けた。「現実の市財政と地方財政制度とのギャップを強く感じる」
18年度の一般会計予算案(7366億円)の編成を一言で言えば、人口増に伴う待機児童対策や都市基盤整備などの財政需要に歳入が追いつかず、収支不足を市債の返済のために積み立てている減債基金から196億円を拝借して埋めた形だ。「あくまで臨時的」と言いながら12年度から続けており、市議会から「歳出改革が足りない」との批判も強まっている。
こうした見方に対し、福田氏は会見で例年になく地方財政制度の影響を訴えた形だった。
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その数日後、定例会での代表質問を準備中の市議会各会派の控室にも「川崎市の財政分析」と題した財政局作成の資料が配られた。地方財政制度が市にいかに不利に働いているかを他の19政令市との比較でA4用紙6枚にまとめたものだ。
資料によると、例えば市民1人当たりの税収(15年度決算額)を比べると、川崎市(20万8千円)は大阪、名古屋市に次ぐ3位。しかし、国からの普通交付税と臨時財政対策債(臨財債)を加えた「自分の裁量で使えるお金」(川崎市資金課)に当たる一般財源額(21万2千円)では18位にまで下がる。
それだけ他市より「仕送り」が少ないわけだ。市資金課は「面積が小さく効率的な行政ができるとし、基準財政需要額の算定で仕送りが少なくても運営できるとみられている」と話す。
このため、08年のリーマン・ショック後に落ち込んだ市税収入が右肩上がりに増えても、臨財債が減らされ、今も市民1人当たりの一般財源はリーマン直後と変わっていない。
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都市部から地方への税流出が深刻化しているふるさと納税の影響も小さくない。減収額は16年度決算の12億円から18年度予算案では39億円と急拡大。しかも交付団体ならば減収額の75%が地方交付税で補てんされるのに、不交付団体の川崎市は丸損となる点も痛い。
消費税の偏在を是正するための法人市民税の一部国税化は税収増の足かせとなる。8%引き上げ時に22億円だった国税化額は18年度予算で39億円に。10%引き上げ以降はふるさと納税と国税化で年100億円近い減収影響を受ける見込みという。市資金課は「成長戦略に注力し税源培養しても、取られるばかり」と不満を募らせる。
市の財政運営の長期見通しによれば、収支不足は23年度まで続き、減債基金からの借入残高は累計で918億円に膨らむ。福田氏は会見で、国や国会議員に制度の改善を求める考えを示した一方、財政健全化への決意も忘れなかった。
「地方財政制度を愚痴ったところでお金は生まれない。この状況に向き合わなければ。これまで以上に毎年度の予算編成、事業執行で緊張感を持って臨む」
