「政党や企業・団体の支援もなく、個人の意思でさまざまな人が応援してくれた。14日間の選挙戦を通じ、政治は市民一人一人のものだと痛感した」
支援者とスタッフ約20人が集まった川崎市幸区の事務所。川崎市長選の投開票日の22日午後10時半すぎ、無所属の元市議・吉沢章子(53)は敗戦の弁を述べた。
自民党の現職支援の方針に反発し所属していた同党市議団を離れ、9月下旬に出馬表明した。この点にも触れ、きっぱりと言った。
「自民党も政治は国民のものと言っている。反党行為をしたとは思っていない」
40万票を獲得した現職・福田紀彦(45)との差はトリプルスコア以上。後日、あらためて所感を問うと、こう答えた。
「知名度のない私に12万もの方が期待してくれた。申し訳ない気持ちでいっぱいだ。12万人の期待にどうすれば応えられるか、今後、考えていきたい」
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出遅れに加え、陣営幹部が描いた戦略も国政の風の急転で裏目に出た。
選挙ポスターは緑を基調に「希望」の2文字を目立たせた「希望都市川崎」のコピー。都民ファーストの会で都議選を席巻し、同日選となった衆院選に向けて「希望の党」を結党した都知事・小池百合子の勢いに乗る狙いは明白だった。
ビラには「しがらみのない政治」と書き入れ、支援団体「川崎市民ファーストの会」は選挙カーに「首都圏女性首長連合 東京・川崎・横浜」の文言を掲げて走らせた。
希望や都民ファの了解は取っておらず、希望の党参院議員・松沢成文は、福田の出陣式のあいさつで「よその政党をパクって運動している候補がいるが、全くの偽物だ」と不快感をあらわにした。横浜市長・林文子は会見で「面識もない。(首長連合も)承知してない」と戸惑いを見せた。
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だが、一番の痛打は「排除」発言などを境に失墜した小池人気だった。陣営は小池色を薄める方針に転換。街頭時に立てる旗を小池カラーと同じ緑と赤から赤のみに切り替え、選挙ポスターには「完全無所属」とのシールを貼って回った。
「結果論だが、小池人気に便乗せず、政策論争をやればもう少し票を伸ばせたのではないか」。他の陣営からそんな声も聞かれた。
もう1人の新人、市古博一(69)も、出馬表明が9月下旬と遅かった。選挙戦最終日の21日も駅頭で「豊かな財政を大規模開発ではなく教育と福祉に」と訴えたが、手応えを尋ねると、市長選の埋没感を気にしていた。
「衆院選に関心があっても市長選をやっていることを知らない人が多い。現職や女性候補は票を集めるだろうが、私は無名だから」
結果は7万8793票。前回の共産党推薦の女性候補の得票をも下回った。初めて衆院選と同日選となった市長選。国政の乱気流は市長選の新人らにとって寒風だったようだ。 =敬称略