2020年度中に小田原市が南足柄市を編入合併する-との想定で重ねられてきた協議が終わった。議論の舞台として2市が設けた任意協議会は一定の財政効果があると結論付けたが、任意協の委員と“吸収”に懸念を抱く南足柄市民の一部からは「新市の具体像が見えづらい」「民意を反映していない」との注文や反対の声が上がる。浮かんでは消えてきた県西地域での合併は、今回もまだ不透明のままだ。
■身を切る
任意協は財政効果などを試算するため、新市のモデルとして「20年度中に南足柄市域を小田原市に編入する」と設定。3270の事務事業のうち、市長ら特別職も含む職員給与など1052を取り扱った。
2市の職員を84人減らし、議員定数も現行の計44から16減の28へ。2市で重複する事業も統合するなどし、合併10年後となる30年度までの累積の財政効果として約150億円をはじき出した。
一方で、2市の行政サービス水準は小田原で8割超、南足柄で6割超を維持。低下するのは小田原、南足柄とも1割以下との結論に達した。
■ビジョン
任意協が主眼としてきたのは、2市の人口減少を見据えた行財政改革。3千を超える事務事業を調整しながら地道に導いた「答え」だが、合併後の姿が見えづらいとの指摘は多い。
新市のビジョンを示す「まちづくり計画」案を協議した10日の最終9回目の会合。委員からは「こういうまちづくりをしていくというメッセージがないと、住民は理解しにくい」など、市民感情を代弁する意見が相次いだ。
会長の加藤憲一小田原市長は「2市が一つになったとき、行財政の弱体化を乗り越えることができるかを検証するのが最大の目的」と理解を求めたが、別の委員も「(9月の)市民説明会では、新たな夢やまちづくりを意識して説明してほしい」と注文を付けた。
南足柄市民有志らでつくる「南足柄市と小田原市の『合併』を考える会」の渡邊紘治代表(74)も、「新市の目玉が何かも分からない」と具体像の見えにくい議論にいら立ちを隠せない。
■温度差?
“吸収”のイメージが根強い合併方式への、当初からあった南足柄市側の警戒感は消えていない。
「新市のモデル」として編入合併を承認した際、委員の南足柄市議はあくまでシミュレーションの前提条件であることを念押し。採決を取らなかったことに苦言も出された。考える会も「任意協の議論に民意が反映されていない」とし、今月5日から合併反対の署名活動をスタートさせた。
県西地域では07年に2市8町の合併検討会が設立され、3年間協議が進められたものの、足並みがそろわず頓挫した経緯もある。
任意協終了後、合併に対する見解を問われた加藤憲一市長は「合理的に考えて、そういう選択肢が取り得るのであれば(合併に)進むべき」と前向きに回答。一方、南足柄市の加藤修平市長は「単に財政効果だけでなく、もろもろを斟酌(しんしゃく)するのが政治の使命」とし、「市民が客観的に判断できるような立場で説明したい」と述べるにとどめた。