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林文子横浜市長 所信表明 全文

政治・行政 | 神奈川新聞 | 2009年9月10日(木) 00:00

8月末の横浜市長選で初当選した林文子市長は10日開会の市会第3回(9月)定例会本会議で所信表明演説を行い、「人の心を大切にするぬくもりのある市政」を基本理念に市政運営に当たる考えを表明し、市会に協力を求めた。

所信表明の全文は次の通り。

ここに議長のお許しを得て、横浜市会の皆さま方へのごあいさつ、ならびに私、林文子の横浜市政に対する考え方を申し上げます。

私は、先ごろ行われた市長選挙で、多くの皆さまのご支持をいただき、この度市政を担当させていただくことになりました。開港150周年、市政120周年の記念すべき年に市長に就任し、これから横浜のために尽力できることを大変誇りに思うと同時に、367万人もの人口を抱える大都市横浜の長となり、市民の皆さまの生活を守っていく使命を担うことの責任の重さを痛感しております。

あらためて、一市民として切実に感じてきたことを大切にしながら、市民の代表である市会の皆さまをはじめ、広く市民の方々の声に謙虚に耳を傾け、市政の運営に全力であたっていく所存ですので、どうぞよろしくお願いいたします。

もちろん、それぞれにお考えがあり、時には厳しいご指摘やご意見もあろうかと思います。「横浜市民のため」「横浜市のため」という点では、基本的に立場を同じくしている者として、市会の皆さまのご意見に真摯(しんし)に向き合っていくつもりでおりますので、ご指導とご協力を何卒よろしくお願い申し上げます。

【時代認識】

さて、昨年秋の世界的な金融危機の影響で、大きな打撃を受けた日本経済ですが、景気は厳しい状況にあるものの、このところ持ち直しの動きがみられるとの政府見解も示されています。しかし、直近の完全失業率をみると過去最悪となるなど雇用情勢は一段と厳しさを増しており、さらに悪化が続けば景気が再び失速する懸念もあり、依然として予断を許すことはできません。

こうした厳しい社会経済情勢の中にあって、格差や雇用不安といった深刻な問題が現れています。生活の場である身近な地域で誰もが安心して暮らしていけることは基本であり、おろそかにはできません。市民が地域社会の中で希望を持って暮らしていける土壌をつくる、つまり、地域でのつながりを強め、活躍できる状況をつくること、具体的には、幅広い教育、職業訓練や雇用機会の創出に力を注ぎ、弱い立場の人を見過ごさない、誰かを排除したりしない、そして一人一人がお互いの人権を尊重する、ぬくもりのある社会にしていくことが、これからの都市における活力の基になると私は考えています。誰もが生き生きと希望を持って地域で暮らしていけるような社会にするためにはどうしたらいいのか、私たちは真剣に考えなければなりません。

一方、世界に目を転じてみれば、不況下にあっても、経済成長の進む都市があります。そうした都市では人口や経済活動が集中し、エネルギー、環境、食料、貧困などの問題が顕著に現れています。

日本第2の人口を擁する横浜としては、これらの都市問題の解決に向けて、今後も責任を果たすことが大切です。

【横浜を俯瞰(ふかん)する】

このような時代にあって、横浜市の今の立ち位置をしっかりと認識しておきたいと思います。

社会経済情勢がかつてないほど厳しい時代にあって、身の丈に合った財政運営を行う努力をしていかなければ、遅かれ早かれ自治体は立ち行かなくなります。規律ある財政運営は基本です。これまで、国よりも厳しい横浜方式のプライマリーバランスの黒字を維持するなど、財政運営に堅実に取り組んできたことは、横浜市にとっての強みです。しかし、こうした努力にもかかわらず、この間の世界経済の影響で一層厳しい状況に追い込まれていることも事実です。これから市内経済の回復が見られたとしても、すぐに市税収入に反映されるわけではなく、財政健全化を避けて通ることはできません。

これまでの横浜の歩みは、開港以来、決して平坦(へいたん)ではありませんでしたが、先人たちのさまざまな英知と行動によって困難を克服し、魅力を高め、誰をも惹きつけてやまない都市となりました。その結果、今では横浜自体が一つのブランドとなり、開放的で洗練されたイメージが一般的にも定着しています。古いものを生かしながら、新しいものも生み出す創造都市としての顔、水・緑豊かな美しい環境都市としての顔、開港の歴史とともに歩んできた国際都市・港都としての顔、こうした多様な顔を持ち合わせている特性は、他の都市にはない大きな魅力です。さらに、福祉、環境、文化芸術などのさまざまな分野で活躍するNPO(民間非営利団体)、ボランティアなど、横浜に大きな愛着を持って活動するたくさんの市民の方々の存在こそが、横浜の大きな活力です。市民との協働の視点をしっかり持ち、市民とともにまちづくりを進めてきたことは誇るべきことです。現在開催中の開国博Y150においても、市民参加を重視し、市民の意欲や実行力が発揮されています。参加者同士がつながり、つくり上げたものを共有していく中で、人と人との絆(きずな)が生み出されています。市内随所にこのような取り組みを広げていくことは、今後とも重要です。

その一方で、選挙期間中に18区を駆け巡り、市民の皆さまとの対話を通して、生活に対する悩みや不安を抱えている方々から、生活に根ざした施策の充実を切実に望まれる声を聴き、生活に安心感を持ってもらえるように取り組むことが何よりも必要だと思いました。

直近の横浜市民生活白書のデータからも、経済環境の急激な変化、少子高齢化の進展を背景とし、先行きの不透明感も加わり、この10年でかつてないほどの不安が市民生活に拡大していることが明らかになっています。基礎自治体であるからこそ、市民の生活に向き合い、少しでも不安を取り除いていくために、地域の事情やニーズを踏まえて取り組むことが重要です。そして、取り組みにあたっては、地域の人々の助け合いやつながりが広がっていくよう、十分配慮していくことが大切であると考えます。

実際にそこに住む人々が安心して暮らしていけなければ、魅力ある都市として成長していくことはできません。だからこそ私は、地域社会に軸足をおいた市政運営が、今一番求められているのだと思うのです。

【市政の方向】

私が、これからの任期で取り組もうと考える市政の方向についてご説明します。

まず、市政を運営するにあたっての基本的な理念について、私の思いを述べさせていただきたいと思います。それは、「人の心を大切にするぬくもりのある市政」です。そのために、生活者目線で考え、現場目線でサービスの向上を心がけていきます。これは、私が仕事をしてきた中で、一貫して大切に取り組んできたことであり、これからの市政運営の中でも生かしていきたいと考えています。

そして、厳しい社会経済情勢の中であっても、私は財政再建と行政サービスの充実の両立に力を注いでいかなければならないと考えています。そのためには困難な課題であっても正面から向き合い、コミュニケーションを大切にすることを基本に、幅広く知恵と工夫を集めて取り組んでまいります。横浜に暮らす、あるいは事業を営む市民の皆さま、市会の皆さま、そして職員との話し合いを重視し、横浜市全体が一枚岩となって取り組んでいくことが、私の理想であり、その実現に向かって努力してまいります。現代社会が抱えるさまざまな問題は、複雑化、多様化していますが、みんなで英知を合わせれば乗り越えられます。厳しい壁を、市民の皆さまと一緒に越える、そのプロセスをもっと生き生きとしたものにして、そこからお互いの信頼の絆をつくっていきたいと思います。

こうした考えで、私はこれから申し上げる五つの方向性に沿って市政を進めてまいります。

1)市民の暮らしの充実

何よりも、生活者の視点を重視して市民の暮らしを充実させてまいります。少子高齢化の中で、いかに活力を生み出していくかを考えると、これまで以上に生活者の視点や活躍が重要です。

特に力を入れていきたいことは、子育て支援の充実です。本年4月時点で、保育所の待機児童は1290人に上っています。保育所整備を進めることはもとより、地域社会や企業などと手を携えた多様な手法で待機児童解消の取り組みを進め、女性が活躍する場を広げることにつなげます。また、ワーク・ライフ・バランスを推進し、誰もが充実した生活を送ることができるように、働きやすい職場づくりや環境づくりへの支援を進めていきます。

さらに、安心して子どもを産み、育てることができるように、産科医療機関や小児救急拠点病院への医師の確保、救急医療体制の充実を図っていきます。そして、横浜の未来を切り開いていく子どもたちが、のびのびと、個性豊かな人材に育ち、夢や希望をかなえていけるよう、その土台とも言える教育の質の向上に取り組んでまいります。子どもたち一人一人に目をかけることができるように、少人数教室やチームティーチングの推進、教員の研修制度の拡充などにより教育の質を高め、子どもたち、保護者の両方が安心できる学校教育を目指します。

これは、横浜の未来、ひいては日本の未来に対する不可欠の投資です。

2)現場目線でぬくもりのある行政サービスへ

二つ目は、行政サービスの向上です。「市民が本当に望んでいることは何か」という観点の下、現場目線で徹底的に行政サービスの内容を洗い直します。市民に一番近い区役所の機能を一層強化するとともに、私自身もできるだけ多く、市民の皆さまと直接お話しする機会を設けてまいります。行政サービスの向上を図るとともに、市民が主体となって、参加と協働の視点で地域運営を行う地域自治を推進し、ぬくもりのある行政サービスの実現を目指します。また、地方自治体が自らの責任で工夫を凝らした施策を行うことで、もっと市民が暮らしやすくなるよう、地方分権の推進に取り組んでいきます。

高齢者施策については、安心して生き生きと暮らしていけるように、介護施設の整備、在宅介護サービスの充実を図り、あわせて定年後などのシニア層が、それぞれの経験を生かせるよう、さまざまな機会や集いの場を提供していきます。障害のある人が、自らの意思によって地域で自立した生活を送れる社会づくりを進めることは、大変重要なことです。将来にわたって安心して生活し続けることができるための施策について、確実に具体化してまいります。生活の安全の確保にも万全を期し、感染の拡大が懸念される新型インフルエンザ対策や大規模地震への対応など、危機管理対策を推進します。

3)環境問題へのさらなる取り組みを進める

三つ目は、環境問題へのさらなる取り組みです。環境問題は世界的なレベルでの対応も検討される問題ではありますが、それぞれの地域での取り組みと、その積み重ねが不可欠です。横浜市は、全国に先駆けて環境行動を推進する重要な役割を担う環境モデル都市に選定されており、市民とともに誇りを持って、その責務を果たしていきたいと思います。

横浜の貴重なみどりを守り育てる取り組みを引き続き進めていくとともに、CO―DO30では目標達成に向けて、再生可能エネルギー普及の飛躍的拡大などに、市民、事業者、行政が一体となって取り組み、さらなる温室効果ガスの削減を目指します。横浜G30プランについては、市民の皆さまのご協力により40%を超えた削減率となりました。その成果を踏まえて、ごみの原料・リサイクルのさらなる取り組みを進めていきます。また、企業や大学と連携した環境技術の研究開発・実用化を支援し、環境問題の解決を図るとともに、新たな産業分野の育成や企業誘致などの経済活性化にもつなげてまいります。

4)国際都市化の一層の推進、経済の活性化

四つ目は、国際都市化の一層の推進と経済の活性化です。横浜市の財産である歴史や文化を生かしながら、国際都市化をさらに進め、経済の活性化を図ります。来年10月には羽田空港が国際化し、11月にはアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が横浜で開催され、国際都市化推進の絶好の機会にあります。この機会を十分に生かし、さらなる国際コンベンションの開催など世界に開かれた都市づくりを進めます。また、海外とのアクセス利便性向上を起爆剤として、国内外の企業誘致にも積極的に取り組みます。国際都市横浜を牽引(けんいん)してきた港は、経済活動にも大切な役割を果たしているため、港湾機能の強化を進めていきます。経済活動はもとより、市民生活を支える都市基盤整備については、計画や事業費などから費用対効果を十分に見極めたうえで、取り組んでいきます。

経済活動の主役は、市内事業者の方々です。市内企業が生き生きと活躍できる環境の整備は、経済活性化の基本として力を注いでまいります。ことに、市内の中小企業や商店街が元気であることが横浜経済においては重要で、緊急経済対策はもちろん、独自の技術や地域性を生かした多様な活性化策を進めていきます。

横浜には、現在約8万人の外国人の方々が住んでいます。日本人市民も外国人市民も、ともに地域を支える主体として生き生きと活動する活力ある社会をつくっていきます。また、異なる文化や生活習慣を理解しあえるよう、ホームステイ、スポーツ分野や文化芸術分野での交流など、多くの市民が参加できる多様な取り組みを進め、引き続き世界の平和と発展に貢献します。

5)財政再建

これまで述べてまいりました取り組みを着実に進めていくためには、財政再建は必須の課題です。私たちは、景気後退の影響を受けた非常に厳しい状況の中で、これから来年度の予算編成にあたっていかなければなりません。平成22年度(2010年度)だけでなく、それ以降も楽観できる状況ではありません。将来にわたり本市の財政破綻(はたん)を防ぎながらも、行政サービスの充実を図るためには、財政健全化にしっかり取り組む必要があります。これまで企業再建に携わってきた経験も生かし、市の財政状況の改善に努めたいと思います。民間企業で用いられている会計手法などを取り入れ、財政状況の良しあしや、分野別の歳出傾向など、誰が見ても理解できるようにするとともに、従来とは異なった新たな視点での事業見直しなどを進め、支出削減を図っていきたいと思います。

市債発行については、子どもたちの将来に過大な負担を残さないよう、今後とも抑制を図っていきます。あわせて、市税収入の安定的確保のために、私自らもトップセールスを行い、積極的に企業誘致を進めていきます。

財政が厳しい中で、行政がやらなくてはいけないことを果たすのは大変難しいことではありますが、皆さまの英知を結集すれば、希望を見いだす手段は必ずあると思っています。

以上、五つの方向性を基本に、私はこれからの市政に取り組んでまいります。具体的な工程は、これから詰めていくことになりますが、できることからスピード感を持って取り組んでいくことで、市政に対する安心感、信頼感を確固たるものにしていきたいと思います。また、工程と実績は分かりやすくお示しし、市民の皆さまにも評価していただけるようにします。幾多の困難を乗り越えてきた先人たちにならい、私も、この横浜を、困難な状況にあろうとも、希望や感動に満ちた社会、明るく輝けるまちとして、次代を担う子どもたちにしっかりと引き継ぐことができるよう、全力でその責務を果たしてまいる所存です。

市会の皆さまのご指導、ご協力をあらためてお願い申し上げまして、私の所信とさせていただきます。

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