10年後の社会像や国民ニーズを見据え、医療・健康に関連する分野で革新的な研究開発を推進する国の「センター・オブ・イノベーション(COI)」が今月、川崎臨海部など全国5拠点で始動した。従来の概念にとらわれない治療法や予防医療の実現を目指す試みで、国がリスクを取って1拠点当たり最大で年間約10億円の研究開発費を充当。川崎臨海部のCOIでは最長9年間をかけて、ナノサイズ(1ナノは100万分の1ミリ)の超微細な医療機器にあらゆる医療機能を集約させ、体内を循環させる「体内病院」の開発を進める。
COIは文部科学省が2013年度に創設した「革新的イノベーション創出プログラム」の一環で、10年後のあるべき社会像、暮らしを示し、そのビジョンを具体化するための研究開発拠点。医療・健康関連など文科省が示した3分野に対し、産学連携による190件の提案が寄せられ、学識経験者による委員会が審査し、10月末に決定した。全分野で12拠点が選出された。
そのうちの一つ、川崎臨海部のCOIは国際戦略総合特区(川崎市川崎区殿町3丁目)を拠点に東京大学、国立がん研究センター、東京女子医大、富士フイルム、理化学研究所、医療産業イノベーション機構などが連携して取り組む。取り組みを統括する研究推進機構(仮称)を設置する。
構想の基盤となるのが、ナノテクノロジー(超微細技術)と先端医学を融合させ、ナノレベルのカプセルに抗がん剤を包み、がん細胞に直接送り込む「ドラッグデリバリーシステム(DDS)」技術だ。
すでに臨床の段階に入っている研究成果を前進させ、病巣の検出、診断、治療といった医療機能を備えた超微細な「ナノマシン」を製造。ナノマシンには、個人の疾患情報をはじめ、化学や光学、触媒技術などによって医療機能を発揮させるための「設計図」を組み込み、自律的に体内を巡回させる。標的となる病巣を検出すると、細胞内に侵入し薬剤を放出するなどして疾患を治療する仕組みだ。
文科省は「企業や大学だけでは実現できない革新的な構想を産学連携で基礎研究から実用化へと進め、イノベーション創出の国内拠点を整備したい」としている。
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