8月25日投開票の横浜市長選で、林文子市長(67)が再選へ向け立候補を表明した。衆院選と同日選だった前回は民主党推薦の林氏が自公の支援する候補と戦い、政党間の対決色が前面に出た。一転、今回は出馬表明から1週間ほどで自民、公明、民主が立て続けに推薦を決め、主要3党が“相乗り”する形となった。
■白紙■
2月初めの予算案の意見交換会。自民党市議団はテーブル越しに林市長と向き合った。自民幹部は席の離れ具合に引っ掛け、言った。「ちょうど、このぐらいの距離感がいいかと」
前回選挙で対決した相手とどう向き合うか。自民内では、厳しい財政状況に対する取り組みなどで林市政に一定の評価がある一方、独自候補を立てようとの主戦論が若手を中心に根強くあった。
「自民にはトラウマがある」と市幹部は言う。2002年、4党相乗りで支えた高秀秀信氏(故人)が、告示直前に出馬表明した当時37歳の中田宏氏(衆院議員)に敗れた経験のことだ。今回も、知名度の高い候補者の出現に神経をとがらせてきた。
市会では、みんなの党が13年度予算案に反対し、市長選に独自候補を擁立する方針を示していた。自民はみんなの党の動向を注視するとともに、党内に残る主戦論にも目を配り、市長選への対応を「白紙」としてきた。
■視察■
自民の対応に注目が集まる中、4月13日に自民党県連会長の菅義偉官房長官が市内で会見し、林市政について「それなりに評価している」と発言。歯車は大きく動き始める。
同19日には安倍晋三首相が成長戦略スピーチで「待機児童ゼロに向け、横浜方式を全国に」と言及。横浜の待機児童対策を評価する報道がにわかに増え始めた。「メディア戦略が巧みだ」。他党の市議はそううなった。
約1カ月後の5月20日、林市長は「待機児童ゼロ」を発表。翌日、安倍首相が市内の保育所を視察した。絶妙のタイミング。ある自民市議が後日、振り返る。「あの2日間のアナウンスは絶大だった」。主戦論は押し込まれていった。
■要請■
首相視察の翌22日には、経済界を中心に再選出馬を求める市民の会が発足し、流れは一気に加速。会の要請を受けた上での出馬表明は、政党色をなくし、各党からの支援を望む市長の思いに沿う形だ。そして、自民はいち早く林氏への推薦を決めた。
前回市長選で林市長を推した民主。自民に“主導権”を奪われた形だが、市議の一人は「衆院選の大敗後、県連組織の立て直しが遅れた。その上、自民の主戦論も漏れ伝わる中、真っ先に推薦を出すこともできなかった。安倍首相が横浜の待機児童対策に言及した時、『やられた』と思った」と明かした。
別のベテラン市議は「(推薦の)順番は関係ない。各党が林市政を評価し、推薦を決めた。相乗りは結果的なもの」と説明。むしろ「私たちが擁立した市長に他党も推薦があり、ほっとしている」と安堵(あんど)感をにじませた。
一方、自民幹部は「あくまで自公の枠組みで戦う。市長がほかに支援を求めるのはかまわないが、相乗りと言われる筋合いはない」と強調した。
市長選には、林氏のほか、共産党推薦で元市議の柴田豊勝氏(66)が無所属で出馬を表明している。候補擁立を目指すみんなの党のある市議は「市民に多くの選択肢を示したいが、参院選も近づいており、残された時間は少ない。ぎりぎりまで検討したい」と話した。
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