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参院選-あなたの選択は-
デモクラシー道場(上)「憲法改正の試金石」

選挙 | 神奈川新聞 | 2016年2月23日(火) 02:00

「憲法改正を緊急事態条項」をテーマにしたデモクラシー道場=1月21日、横浜市中区
「憲法改正を緊急事態条項」をテーマにしたデモクラシー道場=1月21日、横浜市中区

 1月19日、参院予算委員会。質問に立った社民党副党首の福島瑞穂は、首相の安倍晋三を前に切り出した。

 「憲法改正についてお伺いします。総理は、憲法改正の発議ができるよう、改憲勢力の3分の2以上の獲得を目指すとおっしゃっています。自民党はすでに日本国憲法改正草案を発表しています。どれも、極めて問題ですが、この中の一つ、緊急事態条項についてお聞きをします」

 「この新しく自民党が設けている緊急事態、これはまさに効果のところがとりわけ問題です。99条1項、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができる、内閣総理大臣は財政上必要な支出、その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる、となっています」

 「総理、国会は唯一の立法機関です。しかし、内閣が法律と同じ効力を持つことができる政令を出すのであれば、立法権を国会から奪うことになる。国会の死ではないでしょうか」

 安倍が答弁に立つ。

 「この草案につきましては、野党時代、谷垣総裁の元でつくられた草案でございます。大規模な災害が発生したような緊急時のことを言っているのでございまして、平時にですね、行政府が権限を持ってやるわけではないのであります。大規模な災害が発生したような緊急時において、国民の安全を守るため、国家そして国民自らがどのような役割を果たしていくべきかを憲法にどのように位置付けるかについては、極めて重く大切な課題と考えております」

 「他方ですね、自民党の憲法改憲草案の個々の内容について、政府としてお答えすることは差し控えたいと思います。いずれにせよ、憲法改正には国民の理解が必要不可欠であり、具体的な改正の内容についても、国会や国民的議論等、理解の深まりの中で、おのずと定まってくるのではないかと思っております。引き続き、新しい時代にふさわしい憲法の在り方について、国民的議論と理解が深まるよう力を尽くして参りたいと思います」

 福島は語気を強めた。

 「総理が改憲勢力の3分の2以上の獲得を目指すとすでに言っていて、しかも日本国憲法の改憲草案が出ていますので聞いております」

 再び、安倍。

 「いま申し上げたようにですね、私がここに座っているのは、内閣総理大臣として座っているわけでございまして、憲法の改正案の中身については、まさにこれから憲法審査会においてご議論いただきたいと、このように思うわけでございまして、こうした議論が深まっていく中において、おのずとどの項目からですね、改正していこうかということが定まっていくわけでありまして、それ以上、個々の条文について私がいまここで、述べることは控えさせていただきたいと思います」

 決まり文句を繰り返す答弁に、福島は声を荒らげた。

 「極めて問題ですよ。なぜなら、総理は今度の参議院選挙で、憲法の改正の発議ができるように、3分の2以上の獲得を目指すといい、すでに自民党は発表しているわけで、自民党総裁としてどういう風になるのか議論すべきではないですか」

 憲法のどの条項を、どのように変えようとしているのか。8分30秒の答弁の中で、安倍が改憲の中身について言及することは最後までなかった。

本音


 国会答弁から2日後の1月21日。JR関内駅(横浜市中区)からほど近い飲み屋街の一角では、市民参加型のトークイベントが開かれていた。グラスを片手に民主主義を語り合う「デモクラシー道場」。2015年1月のスタートから7回目を数えたこの日、テーマとなったのは「緊急事態条項」だった。マイクを握ったのは、災害関連の法律に詳しい弁護士の小口幸人だった。

 「安倍さんは憲法改正について『これから議論したい』と言っておきながら、テーマすら言わない。テーマすら言わない人に対して、権限を与えることを何と言うか知っていますか。白紙委任です。参院選で『憲法改正する。どれを変えるか言わないけれども、権限はちょうだいね』と言っているわけです」

 その上で、こう続けた。

 「参院選は憲法改正の試金石です。安倍さんはいろいろなことを言うと思います。一億総活躍社会の話、消費税の話、アベノミクスの話、いろいろ言うでしょう。しかし、そこは争点ではありません。なぜなら、衆議院で3分の2以上の議席を彼らは持っているからです。どんな法律も通せます。参議院で1議席も取れなくても通せるんです。だから、そこは争点じゃないんです。参院選の結果で変わるのは『憲法改正のための発議ができるかどうか』。この一点だけです。それくらいのパワーを彼らは持っているんです」
 
 07年、第1次安倍内閣は憲法改正のための手続きを定めた国民投票法を成立させた。政権から一時退いたが、野党時代の12年4月に自民党憲法改正草案を発表。同年12月に政権に返り咲くと、13年に特定秘密保護法を成立させ、14年には集団的自衛権の行使容認を認める閣議決定を行った。そして15年、安全保障関連法を押し通した。

 小口の手元には、ある新聞記事が残されていた。安保関連法が成立した直後の2015年10月1日、東京新聞朝刊。記事には、こう記されていた。

 〈自民党の古屋圭司憲法改正推進本部長代理は9月30日、東京都内での会合で改憲に関し、大災害や他国からの武力攻撃の際、首相の権限を強化する緊急事態条項新設から着手したいとの意向を示した。「本音は9条(改憲)だが、リスクも考えないといけない。緊急性が高く、国民の支持も得やすいのは緊急事態条項だ。本音を言わずにスタートしたい」と述べた。〉

 〈各党が賛同しやすい項目から改憲を目指す自民党方針をめぐり、野党などから「お試し改憲」だとする批判が出ていることについて「お試し改憲でいけないのか。問題ない。世界各国は時代の変遷に応じて改憲している」と反論した。同時に「安倍内閣のときが最大のチャンスだ。絶対に失敗しない取り組みをしないといけない」と強調した。〉

 小口は言う。

 「これが、彼らの本音です」

 改憲を党是とする自民党にとって、憲法9条改正が本願と目される。しかし、平和憲法の礎である9条は国民の反対意見が根強く、改正のハードルは高い。反発が起きにくく、確実に憲法に手を加えられるとすれば、どの項目か。持ち上がったのが、緊急事態条項だった。

 昨年5月、自民党の憲法改正推進本部が初めて行った街頭演説会で、党幹部らは東日本大震災の経験を踏まえ、大災害などの対応を憲法に盛り込む必要があるとして「緊急事態条項の新設」を訴えていた。幹事長の谷垣禎一は強調した。「私たちは(憲法改正については)1年生ですから、背伸びをせずに、失敗しないようなところから進めていくことが必要だと考えています」

 小口は、あらためて言う。

 「彼らはやる気満々です」


「緊急事態条項は3つの観点から不要と言える」と話す弁護士の小口=横浜市中区(コバヤシイッセイ提供)
「緊急事態条項は3つの観点から不要と言える」と話す弁護士の小口=横浜市中区(コバヤシイッセイ提供)

不要


 参院選の結果では、改憲が一気に現実味を帯びる。

 イベントには、13年4月から「憲法カフェ」と名付けた憲法学習会を各地で行っている弁護士の太田啓子も参加していた。太田は参加者に語り掛けた。

 「どういう改正をするかが大事だと思っています。憲法改正に賛成か、反対かと(国民に)聞いても何も聞いていないのに等しい。すごくバカバカしい質問だと思っています。『どう変えるのに賛成?』というように目の前で具体的な案を言われなければ、賛成も反対もできるはずがない。どういう案かをしっかり見たいと思っています。良い改正なら賛成だし、悪い改正なら反対です」

 その上で、こう強調した。

 「緊急事態条項は、非常に危険な条文です。7月の参院選の前に、絶対に知っていなくてはならない」


「夏の参院選前に緊急事態条項は絶対に知ってなくてはならない」と話す弁護士の太田(右)=横浜市中区(コバヤシイッセイ提供)
「夏の参院選前に緊急事態条項は絶対に知ってなくてはならない」と話す弁護士の太田(右)=横浜市中区(コバヤシイッセイ提供)

 太田と小口はともに、全国の弁護士らでつくる「明日の自由を守る若手弁護士の会」のメンバーでもある。同会は自民党改憲草案の危険性を指摘、立憲主義の重要性について発信している。緊急事態条項の新設についても「反対」の立場を取る。

 緊急事態条項について、安倍はこう発言している。「大規模な災害が発生したような緊急時において、国民の安全を守るため、国家そして国民自らがどのような役割を果たしていくべきかを憲法にどのように位置付けるかについては、極めて重く大切な課題と考えます」

 答弁をなぞらえるのであれば、なぜ、安倍首相は緊急事態条項を憲法に明記しようとしているのか。そして、なぜ法律家である弁護士が反対しているのか。

 小口は参加者を前に、言った。

 「必要性、弊害の有無、濫用(らんよう)の恐れ。以上、3点から『緊急事態条項はいらない』という理由をご説明します」

=敬称略


弁護士の解説を真剣に聞く参加者=横浜市中区(コバヤシイッセイ提供)
弁護士の解説を真剣に聞く参加者=横浜市中区(コバヤシイッセイ提供)

 ◆参院選-あなたの選択は-◆

 今夏の参院選で、安倍晋三首相は「憲法改正」を争点にすると明言した。改憲は、自民党の党是であり、首相自身の悲願と目される。昨年は憲法違反と指摘された「安全保障関連法」が強行採決の末に成立した。参院選で改憲の国会発議に必要な定数3分の2以上の議席を与党が確保した場合、戦後初の憲法改正が一気に現実味を帯びる。

 政権の動きに対し、いま街場では二つの動きが加速している。アベ政治の暴走に危機感を募らせ、打倒に向けて動き出す人々。一方、政権を支持し、憲法改正へと機運を高める人々。安全保障関連法、改憲、そして安倍政権の是非が問われる国政選挙。

 あなたは安倍政権を支持しますか。それとも支持しませんか―。半年間、両者の立場から、主に市井で活動する人々を追うとともに、決戦に向けた候補予定者らのうごめきも伝えていく。

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