統一地方選の前半戦で、共産党が県議、政令市議選で躍進を果たした。一昨年の参院選、昨年末の衆院選で議席を伸ばした勢いを地方選にも持ち込み、県議会では悲願の議席奪回を成し遂げた。「安倍政権に正面から立ちはだかる唯一の存在として認知された」とみる県組織は、躍進の流れを一過性に終わらせまいと、統一選後半戦や来夏の参院選をにらむ。勢いは本物か-。働き盛りの世代への浸透や政策実現力を課題に挙げる声もある。
「すごい、すごい。(当確の)花が足りなくなるよ」。13日未明、横浜市港北区の小さな事務所は活気にあふれていた。
港北は、県議選で大山奈々子氏(52)が初当選。市議選でも、現職の白井正子氏(55)が共産議員としては44年ぶりにトップ当選を果たし、「躍進」の象徴区となった。「民意無視の安倍政権へのノーが躍進につながった」。大山氏の声は興奮でうわずっていた。
基地の街・横須賀の県議選でも、井坂新哉氏(43)が同党議席を8年ぶりに回復。「米軍基地問題を県政で取り上げる」と決意を新たにした。
議席がなかった県議会は6議席に伸ばし、代表質問に立てる「交渉会派」に。政令市議選でも横浜の4増をはじめ、3市すべてで議席増を成し遂げた。
当初から力が入っていた。志位和夫委員長は告示日の3日に加え、9日にも来県。大山、井坂両氏らが出馬した重点区でマイクを握り、安倍政権の集団的自衛権行使容認の動きを指弾。「戦争立法ストップの声は、党をつくって93年、反戦平和を貫いた共産候補へ」と力を込めた。
結局、41道府県議選全てで当選者を出し、議席がない「空白県」を初めて解消。「重要な躍進を勝ち取った。後半国会では戦争立法を廃案に追い込むため、全力を挙げる」。13日、志位氏はそう宣言した。
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「自民、公明、維新は集団的自衛権の行使容認に前のめり。民主は立ち位置を示せない中、ぶれないわれわれに反戦平和の願いが託された」。共産県委員会の田母神悟委員長は躍進理由をこう説明する。加えて前回、旋風を巻き起こしたみんなの党の解党など、第三極の弱体化が有利に働いた、とみる。
後半戦で市議選の告示を控える党関係者も「間違いなく弾みがついた」と笑顔。県委員会はすでに来夏の参院選に照準を定め、「候補を至急、定めたい。できるだけ若い人を、と思っている」。
課題は、躍進の流れを持続的なものにできるかどうかだ。共産は1998年の参院選で畑野君枝氏が神奈川選挙区で議席を獲得。翌99年の統一選で、県議会は6議席に躍進した。しかし、その後は自民、民主の二大政党の波にのまれて埋没、長期低迷した。
今回も昨年末の衆院選の比例南関東ブロックで畑野氏が10年ぶりに国政に復帰。翌春の統一選での飛躍につなげた。畑野氏は「同じ轍(てつ)を踏まぬよう、政権を任せてもいいと認めてもらえる、政策力を磨かないと」と話す。
田母神氏は党員の高齢化を指摘。原発や派遣労働問題を挙げ、「若者とかみ合う問題は多いが、40代の現役世代の支援者が少ないのが気掛かり」と話す。
東北大大学院の河村和徳准教授は、今回の躍進に関し、民主党が候補を絞り込んだことと、低投票率で組織政党に有利だった点を挙げ、「共産党は政権を取らない『完全野党』だから、安心して政権批判票を投じられる面がある」と分析。「完全野党と思っていた共産が政策を実現しようとすると、支持が離れかねないジレンマを抱えている」とも指摘する。